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MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、7月17日に大阪・心斎橋のCONPASSにて予定されている久しぶりのライブが大きな話題になっているハードコアパンクバンド、STRUGGLE FOR PRIDEの今里 a.k.a. DJ HOLIDAY。
93年のバンド結成から数回のライヴを行った後に活動休止。そして、2000年から活動を再開し、ハードコアパンクシーンに収まりきらない広範な支持を得たSTRUGGLE FOR PRIDE。そのヴォーカルである今里は、DJ HOLIDAYほか様々な名義でDJも行い、その素晴らしいセレクションとプレイでも高く評価されている。
STRUGGLE FOR PRIDEのファーストアルバム『YOU BARK WE BITE』リリースから今年で10年。多くのリスナーが待ち望んでいたライヴを控えた今里にバンドについて、DJやその音楽観について、インタビューを敢行すると同時に、DJ HOLIDAY名義のDJミックスの制作を依頼。これからやってくる暑い夏に映える素晴らしいミックスと共に貴重なインタビューをお楽しみいただきたい。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo : Shin Hamada | Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
今は大阪のライヴだけ考えたいんですよね。それ以外に作品だったり、やりたいことはいっぱいあるんで、ひとつずつ形にしたいと思ってます。
— 2006年リリースのアルバム『YOU BARK WE BITE』から今年で10年。7月17日の大阪・心斎橋CONPASSにて、久しぶりのライヴが控えているSTRUGGLE FOR PRIDEですが、その前、最後にライヴをやったのはいつになるんですか?
今里:最後は多分、2010年6月か7月、大阪が最後だったと思いますね。
— では、6年ぶりのライヴになる、と。今は、それこそ、STRUGGLE FOR PRIDEのことは知ってるけど、ライヴは観たことがないKID FRESINOのように、ライヴを観たことがない若いリスナーも多いと思うんです。まず、STRUGGLE FOR PRIDEはライヴと作品をどのような表現として、それぞれ考えているんでしょうか?
今里:ライヴは、週末の貴重な時間をわざわざ割いて遊びに来てくれるみんなに楽しんでもらえばいいかなって思っていて。作品に関しては、俺らの場合、作品のインターバルが結構あるので、その間に妄想したことやアイデアを実現する場なんですけど……それって、どのバンドもやってることですよね(笑)。
— (笑)そうですね。ただ、STRUGGLEの作品は、スタジオの演奏をただ録音しただけのものではないですよね?
今里:そうですね。ライヴの時と同じようにレコーディングに臨むと、単純に分かりにくくなってしまうので、そこは完全に分けてますね。あと、自分たちだけだとアイデアが固まりすぎてしまうので、(エンジニアのillicit)tsuboiくんだったり、協力してくれる人の意見を大事にしています。ハードコアっていうのは、もともと実験的で自由な音楽だと思っているので、新しいことをやろうっていう意識は全くなくて、本来の実験的で自由なハードコア、そのトラディショナルな形をやりたいと思っていて、そこに妄想が加わることで作品が生まれるっていう。何せ、やりたいことが山ほどあるので、それをただぶっこみたいっていうだけですね(笑)。
— 過去の作品では、例えば、フランク&ナンシー・シナトラ「Something Stupid」のカバーやイギリスのサイケデリックロックバンド、ホークウインド「Silver Machine」のカバー、あるいはカヒミ・カリィやNIPPS、ビートメイカーのSTARRBURSTの参加だったりというのが、まさに妄想の具現化ということになるわけですね。
今里:そうですね。音楽を口実に会いたい人に会ったり、やりたいカバーをやって、周りの友達を誘っただけっていう(笑)。
— そして、STRUGGLE FOR PRIDEは、93年の結成からギターのグッチン、ベースのヤンクンは不動のメンバーですよね。
今里:まぁ、その2人は、音楽をやるにあたって知り合った友達ではなく、バンドをやる前からずっと知り合いなんですよね。だから、一緒に音楽をやるうえでは言わなくても分かってくれる部分もあるし、他の人だったら、言ったら喧嘩になっちゃうようなことでも、普通に言い合える関係だったりするので、その辺は楽だし、得だなって思いますね。そこらの子供がそのまま大人になっちゃった感じなんですけど、仲がいいということに関してはすごい強いと思いますね。
— 今里くん個人では、よく知られているDJ HOLIDAYをはじめ、複数のDJ名義がありますよね?
今里:DJ HOLIDAYとか、BLONDIE THE ORANGE BOXCUTTERっていう名義でずっとやってたんですけど、ある時期からその名前を出すのを止めて、新しく、ILL FANTASTICOって名前を付けたんですけど、その名前は日本のアニメ『ポールのミラクル大作戦』がイタリアで放送されてた時のタイトルから取ったんですよ。さらにいうと、そのILL FANTASTICOは、ボストン出身で隣に住んでたおじいさんが亡くなって、その形見分けでレゲエのレコードをいっぱいもらった女の子っていう設定だったんですけど(笑)。
— はははは。
今里:変名だと、他には2回しかやってないDRUNK SINATRA、CHOCOLATE HOLICとか(笑)。それから、ここ最近やっているETERNAL STRIFEは、GRIN GOOSEとのDJデュオなんですけど、GRIN GOOSEとは昔から仲がいいというか、単純に僕が彼のファンで、持ってるレコードをもっと聴きたいなと思って、一緒にDJをやったら、定期的に聴けるなっていう発想から始まりました(笑)。ETERNAL STRIFEは、俺のなかでバンドと同じくらい気合いが入っているプロジェクトなんですけど、彼と一緒にDJをやっていて、何が楽しいかというと、DJをどうするかという話は一切せず、ただ単純に2人が最近聴いてるレコードを持ち寄って、3曲ずつかけて、「ヤバいっすね。これ、誰ですか?」って言い合ってるところだったりして。まぁ、言ってみれば、部屋で遊んでる感じそのままなんですけどね(笑)。
— ヒップホップからソウル、ドゥーワップをはじめ、色んな音楽をプレイされてますが、ここ何年もスカやレゲエにディープに傾倒していて、大阪に足繁く通ってますよね?
今里:中学生の時に自分がグッチンやヤンクンと聴いてたハードコアって、ほとんどが大阪のバンドだったんですけど、その後、大阪に遊びに行って、友達や先輩と会ったり、レコードを買ったりしているうちに、自分のなかで、スカやレゲエは大阪の音楽っていうことでいいんじゃないかなと思うようになったっていう(笑)。スカについては、ギャングスタラップと変わらない、血なまぐさい音楽だということに気づいたことが大きくて。自分はパーティミュージックとしては聴いていないんですけど、そういう影響は(CRACKER JACKSの)中谷さんから教えてもらったことが全てなんですよね。大阪には、スカやレゲエのレコードにまつわる半端ないエピソードが色々あるし、ものすごい情熱を傾けている人、背負っているものが違うなって思う人との出会いもあって、より惹かれていって。大阪で聴くと気分が高揚するんですよ。
— STRUGGLEの久しぶりのライヴで中谷さんにDJをお願いしたのも、そういう経緯があるわけですね。
今里:そうそう。大阪で一緒に遊んでる時、中谷さんが話したことを、俺は一言も聞き逃さないっていう。そういう普段の会話から本当に色んなことを学ばせてもらったり、分厚い英書のレゲエ・ヒストリー本を英和辞書と一緒に送ってくれたり、中谷さんが近くにいてくれて、本当にありがたいなって思います。
— 日本を含め、スカやレゲエは世界的にハードコアなディガーがしのぎを削ってる音楽でもあるじゃないですか。レコードはどうやって掘ってるんですか?
今里:今は大阪の知ってる人から譲ってもらうことが多いですね。お店でいったら、JAZZBO RECORD-MARTとかTSUKASA RECORDSとか。両方ともお酒とかも飲みながら話して、お薦めのレコードを教えてもらったり、そういうやりとりが本当にありがたいんですよね。
— スカやレゲエって、ジャズやドゥーワップ、ガールポップやソウルだったり、その時期にアメリカで流行っている音楽の影響が色濃く反映された音楽で、その世界を掘り下げていくと、同時に色んな音楽にも通じていくことにもなりますよね?
今里:そうなんですよね。スカやレゲエにエッセンスとして入ってる音楽の聴き方が自分のなかですごい変わって、今まであんまり聴かなかった音楽をスカやレゲエを通して、色々聴くようになったんですよね。例えば、いわゆるUKのラヴァーズは、俺にとってはサイケデリックな音楽の一種として聴いていたんですけど、よくよく調べたら、デニス・ボーヴェルはジミ・ヘンドリックス好きだったりして、「やっぱり、そうだよね!」って思う瞬間が沢山あるんですよ。そういう発見や出会いがすごい楽しくて。
— そういう体験を経ているからこそ、今里くんのDJは、スカやレゲエだけでなく、それに付随する色んな音楽の豊かさが感じられて、聴いているとぐっと来るんですよ。
今里:こないだ、OS3(DJ HIGHSCHOOL)とも話してたんですけど、屈強な男が泣き言をいうレコードがいいんじゃないかって(笑)。ギャングスタラップにも共通するものがありますよね。
— まさに。ギャングスタラップなんて、めちゃくちゃスウィートなトラックで物騒なことを歌ってる音楽ですし、チカーノ・ギャングの間でもスウィート・ソウルが愛されていたり、そのギャップに萌えますよね。
今里:拳銃と失恋の世界っていう(笑)。
— ギャップといえば、今里くんは激烈なハードコア・バンドをやりながら、一方ではDJ HOLIDAY名義で渋谷系の代表的なレーベルと言われているTRATTORIAの音源をまとめたコンピレーション『The music from my girl friend’s console stereo』をリリースしたり、STRUGGLE FOR PRIDEでも過去にスコットランドのノスタルジックなギターポップ・バンド、Camera Obscuraと対バンしたり、ぐっとくるメロディの立った音楽も好んで聴かれていますよね。
今里:結局のところ、自分にとっては、好きな音楽と嫌いな音楽しかなくて。それ以上、細かくは分けられないというか、分からないっていう感じなんですよね。
— 音楽が分かれず混ざっていた場というと、若かりし頃の今里くんが足繁く通っていた下北沢のスケートショップ、VIOLENT GRINDの向かいには、日々、クロスオーバーが繰り広げられていたZOO(後のSLITS)というクラブがありましたけど、その影響も小さくはなさそうですね。
今里:まぁ、ZOOに行ってる時は正直言って音楽なんて聴いちゃいなかったんですけど(笑)、今になって考えると、面白い場所だったんだなって思いますし、環境は良かったんでしょうね。今の自分もあの頃と同じような環境にいるし、それは変わってないのかなって思いますからね。
— 当時のZOOのように特殊な、特定の場所はないかもしれないけど、友人関係だったり、一時的に身を置くライヴやパーティの空間に共通する空気はあるんでしょうね。
今里:ZOOがあったのは僻地といえば僻地じゃないですか。あんな下北沢の街に一個しかないちっちゃなナイトクラブで、毎晩変な人達が集まってたわけだし、そこにいる大人の人たちに可愛がってもらってた後輩キャラが当時の人たちの間ではいまだに通用するっていう(笑)。そういうのは楽でいいですよね。
— 夜遊び、音遊びといえば、ここのところ脚光を浴びているNEO TOKAI/TOKAI DOPENESS、ATOSONE率いるTYRANTだったり、RCSLUMの動きを相当早い段階で教えてくれたのも今里くんだったし、面白い音楽をいち早くキャッチするアンテナには個人的に驚かされることが多くて。
今里:(WDsoundsオーナー)MERCYくんからはTOKAIもそうだし、色んなことを教えてもらったりしているんですけど、周りの友達が教えてくれる音楽や場所に間違いはないなって思ってて。俺は人に全部委ねちゃう方だから、話はそれに尽きますね(笑)。音楽に限らず、食べ物でもなんでも、自分が好きなものを薦めてもらえるのはうれしいですよね。
— MERCYくんだったり、SEMINISHUKEIのクルーやATOSONEをはじめとする名古屋の面々、DOWN NORTH CAMP、そしてSTRUGGLE FOR PRIDEを観たことがない世代のFla$hBackSまで、各地にいる異なる世代が繋がりながら、いい音楽を紹介しあったり、音楽制作で切磋琢磨しながら、真剣に遊びを極めている、そんな環境が今里くんの周りにはありますよね。
今里:みんな、感覚が似てるというか、「そんなの知らねえよ」って感じで、かますのが好きなんだろうなって思いますね(笑)。
— 最後に、7月17日に大阪・心斎橋のCONPASSでPAYBACK BOYS、SANDという2バンドとDJに中谷さんを迎えたSTRUGGLE FOR PRIDEのライヴについて、ご紹介いただけますか?
今里:イベントを企画してくれた方が「この面子でいくんで」って感じで決めてくれて、「どうも、ありがとうございます」って(笑)。PAYBACKに関しては、毎日会ってる友達だし、中谷さんは師匠だし、SANDは感覚もやり方も感じ方も似ているバンドなので、分かってくれてるラインナップだなって。
— リハーサルの手応えはいかがですか?
今里:グッチン、ヤンクンとは同級生の延長線上でずっとやってきたので、これといって変わらず、べらべら喋って、練習する感じですね。ただ、俺はスタジオに入るのが6年ぶりくらいなので、「どうしよう、すごい恥ずかしいな」って(笑)。こないだも、dREADEYEのライブ映像を観て、「みんな格好いいな」って、完全に人ごとのように現実逃避しちゃってましたからね(笑)。
— 今後の活動に関してはいかがですか?
今里:ライヴは誘ってもらっているんですけど、一応、全部断っていて。というのも、グッチンとよく話しているんですけど、再結成のバンドで格好良かったライヴをほとんど観たことがないんですよね。大体、それなりの年月を感じてしまって、思い出だけ、みたいな。自分たちはそうなりたくないなって。だから、今は大阪のライヴだけ考えたいんですよね。それ以外に作品だったり、やりたいことはいっぱいあるんで、ひとつずつ形にしたいと思ってます。
— というか、STRUGGLE FOR PRIDEは解散してないですよね?
今里:そうなんです、そうなんです。ただ、ライヴが出来なかっただけなんですよ(笑)。
LIVE INFO
CHOICE 2
2016年7月17日(日)
大阪・心斎橋CONPASS
OPEN 18:30 START 19:00 CLOSE 22:30
LIVE:
STRUGGLE FOR PRIDE
SAND
PAYBACK BOYS
DJ:
NAKATANI ( CRACKER JACKS )