蒲谷健太郎が通う、うますぎる店 vol.1 東中野・BESPOQUE

by Kentaro Kabaya and Yugo Shiokawa

旧EYESCREAM.JP時代に存在していたブログのなかで、とくに業界関係者からの注目を集めていたbalデザイナー、蒲谷健太郎氏のグルメ記事。ヒップホップカルチャーをバックボーンに持つ氏ならではのディグ精神により、大衆居酒屋から半年先まで予約の取れない超人気店までをフラットに紹介するグルメレポートの数々が、食いしん坊や飲ん兵衛のあいだで好評を博した。

そんな蒲谷グルメブログ消失を嘆く声はMastered編集部にも多く届き、この度新連載「蒲谷健太郎が通う、うますぎる店」としてリスタート。ブログ時代のグルーヴはキープしつつ、連載記事としてより一層充実させてお届けしていく。

その記念すべき第一回として訪れたのは、東中野のガストロパブ・BESPOQUE(ビスポーク)。蒲谷氏に「一生通いたい」と言わしめる同店の魅力とは、一体?

Text & Photo : Kentaro Kabaya | Edit : Yugo Shiokawa

新宿から総武線で2駅。住んでいる方や近くの学校に通っていた方、はたまた日本閣で結婚式を挙げた方以外にはあまり馴染みがないであろうJR東中野駅から徒歩2分程度の場所に、僕が一生通いたいお店のひとつ、BESPOQUEがあります。
以前ブログでも紹介しましたが、客席はカウンターの10席のみと、決して広くはない店内。「ガストロパブ」という聞きなれないジャンルのお店ですが、イギリスの田舎のパブを再現した、要は料理も酒も楽しめる自由な食堂ということ。
そこで腕を振るうオーナー兼シェフ、野々下レイさんはフランス料理店からアメリカ大使館の食堂まで、雇われシェフとして数多の経験を重ねてきたんだそう。ひとりでお店を切り盛りしながら、食材にこだわり、作れるものはなんでも作ってしまうスゴイ人。お店で使っているベーコンやチーズ、パン、マヨネーズからケチャップにいたるまで、すべて自家製というんだから驚きです。

「イギリス料理っておいしくないんでしょ?」っていうステレオタイプにとらわれている人にこそ薦めたい、とっておきのお店です。

気になる当日のフードメニューはこちら。
まさに少数精鋭。上からに順に頼めば、立派なコースメニューになります。
いつも定番メニューと日替わり料理が半々くらいなんですが、「あ、今日はアレがある!アレはなんだ!見たことない!」と、毎度心踊ります。

まずはパイントグラスになみなみと注がれた、バスペールエールのドラフト。
清潔に保たれた生サーバーから注がれるクリーミーなビールで、喉の渇きを癒す一杯目にはたまりません。

定番メニューのフレッシュチーズとアボカド。
くどくない、サラッとしたチーズはレイさんの自家製です。
前菜として必要十分なシンプルさで、もう完璧。

シェパーズパイ。
今回のメニューにおける「アレはなんだ!」案件だったこちら。
日曜にローストした肉やジャガイモ、野菜などを食べる「サンデーロースト」というイギリスの伝統的な食事があって、その残り物でパイを作ったものが起源とのこと。
イギリス家庭料理の定番だそうで、こんがり焼かれたマッシュポテトの下には、牛や羊のあら挽き肉、人参などがたっぷり。
チーズとパスタのないラザニアというような感じで、パンですくって皿を舐めるように食べてしまいました。

シェパーズパイを食べ終わるころにはすっかりビールも飲み干して、定番・ピムス(Pimm’s)のカクテルへ。
ジンをベースに、リキュールや柑橘系フルーツエキスなどを配合したカクテル・リキュールであるピムスに、ジンジャーエール、オレンジ、ミント、そしてきゅうりをプラスしたもの。爽やかで食事にも合います。
ちなみに、きゅうりの栽培が難しかったかつてのイギリスでは、メロン並みに高級品だったんだそう。
新鮮なきゅうりを振る舞えることがステータスとされていたため、現在もアフタヌーンティーにはきゅうりのサンドイッチが供されるという形で慣習化しているそうです。

BESPOQUEのシグニチャーでもあるフィッシュ&チップス。
イギリス料理マニアのレイさんが研究に研究を重ね、理想のチップス(イギリスではフライドポテトをチップスという)にたどり着くまで5年はかかったという代物。
イギリスに行ったことのない僕が言うのもあれですけど、これは現地よりおいしいんじゃないかと。多分。少なくとも、日本では一番おいしいと思います。
カラっと揚げられ、噛んだ瞬間カリっと響く程よい厚みの衣に、ふわっふわの白身魚が閉じ込められた様は、まるで幸福な軟禁状態。
一方、ポテトはクリスピーな方向性ではなく、じゃが芋の甘みが広がるしっとりとした仕上げ。この日は東京産の北あかりを使っているとのことでした。
自家製マヨネーズで作るタルタルソースと、イギリスのサーソンモルトビネガーが合う合う。

今日のキラーメニューはコイツでした。グリルチーズサンド。
プロセスチーズに高級チェダーなど数種類のチーズをこんもりと挟んで、バターも二種類使い分けながらじっくりとフライパンで焼き目をつけていくという、シンプルながら手の込んだ一品です。パンはもちろん自家製の食パン。
あれ!これはもしやと「映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』のチーズサンドみたい」とつぶやいてみたら、「そうそう!あれインスパイアなのよ〜。あれを見てて作りたくなってやってみたのよ〜」とレイさん。
とろけるチーズの多重奏に悶絶。付け合わせとして120点な玉ねぎのピクルスは、できあがるまでに5ヶ月もかかるそう。
しっかしこんなの、うまいに決まってる。ずるい!最高!

一応連載企画の取材ということで、酔っ払いすぎないようノンアルコールカクテルなんかもはさみつつ(写真撮り忘れました。ノンアルもおいしいので、下戸の方も是非!)、こちらはめったにお目にかかれないレアメニューのバターチキンカレー。
今日のために用意してくれました。ありがたや〜(涙)。
カレーマニアの方も唸る一品。トマトの酸味と軽いサフランライスで、これはまさに呑める炭水化物(※編注1)です。
付け合わせのピクルスは単体でもずば抜けておいしいけど、カレーの付け合わせとしてもこれ以上ないぐらい抜群の存在感を発揮します。

※編注1:呑める炭水化物 ー ブログ時代からの定番フレーズで、 「酒のアテになる炭水化物」の意。「カレーは飲み物」的な方向性ではありません。念のため。

締めは紅茶で。僕はコーヒーが飲めないので、紅茶がおいしいお店って嬉しい。
この日はニュージーランドのダージリンだったかな。ここの紅茶はほんとに絶品です。
たっぷりの茶葉に、空気を含ませるように高い位置からお湯を注ぐ。淹れ方が違うのだな〜。

普段デザートまで食指が伸びるタイプではないですが、こちらでは別。憧れていたレモンパイを用意してくれていました。
お酒に合うことが意識されていて、ふわふわなレモン味のメレンゲで、いつものBESPOQUEのデザートメニューよりは若干甘め。
大満足のフルコースでした。

素晴らしく気の利いた、シンプルだけどパワフルで繊細な料理の数々。とことんセンスが素晴らしい、そんなお店です。
11月頃には、店主レイさんのレシピ本が出るそう。すでに撮影は終わっているとのことで、今日紹介した料理をはじめ、さまざまなレシピが載っているそう。楽しみですね!

では、また次回、どこかのお店でお会いしましょう。

店舗情報

BESPOQUE(ビスポーク)
住所:東京都中野区東中野1-55-5 土田ビル 1F
TEL:03-5386-0172
営業時間:18:00~23:00
定休日:水曜日・日曜日
http://bespoque.exblog.jp/

筆者プロフィール

蒲谷 健太郎(かばや けんたろう)
ファッションブランド、bal(バル)のデザイナー。ユースカルチャー全般に精通し、現在は最新のヒップホップにドハマリ中。
現行のヒップホップをディープハウス/テクノ的な解釈で紡いでいくDJミックス『Deep Rap』シリーズが好評で、DJとしてもさまざまなイベントで引っ張りだこ。
http://baloriginal.com/