スニーカーや古着と同じく、男ってやつはとにかく「おっぱい」に弱い。では、そんな僕らが夜な夜なお世話になっている”華麗なるおっぱい”は、一体どのように世に生れ落ち、どのような経緯を辿って我々の目の前に現れることとなったのか。もちろん、それが作中で語られている大人のビデオだって、たくさんあるにはあるのだが、そんなものは大抵早送りして、見もしないってのが男の性である。
けれども、そこには様々な価値観や考え、そして人生とストーリーが詰まっている。EYESCREAMブロガーとしてもおなじみ、我らがハメ撮り隊長ことカンパニー松尾による本連載『カンパニー松尾の「華麗なるおっぱい」』は、毎回、1人のAV女優にフィーチャーし、文字通りその”華麗なるおっぱい”の真相に迫っていくという、時に楽しく、時にちょっぴり切ないインタビュー企画(巻末にはカンパニー松尾による最近お気に入りの”カレー”を紹介するオマケ付き!)。
栄えある第1回にゲストとして登場してくれるのは、かすみ果穂。
Interview:Company Matsuo
Text&Edit:Keita Miki
Photo:HMJM
Starring:Kaho Kasumi
■カンパニー松尾の「華麗なるおっぱい」 かすみ果穂編
私はたまたま自分を変えるキッカケがAVだったけど、もしあの時、他にそういうキッカケを探せばたくさんあったんだと思う。(かすみ果穂)
松尾:今回はオシャレなウェブサイトでの連載ということで、かすみさんの事を知らない読者さんも多くいらっしゃると思いますので、まずはとっかかり的な部分から話を聞いていければと思います。そもそも何故僕がこの連載を始めるのかと言うと、アダルトサイトでは無い、一般のサイトで僕がAVの話をすることで「あぁ、こういう子もAVやってるんだな。なんか良く分からないけど、AVの世界って面白いな」ってことを少しでも多くの人に感じてもらえたら嬉しいなと思いまして。で、まぁ第1回目はかすみさんしかいないだろうと。もう辞めちゃうけどね(笑)。
かすみ:光栄です。ありがとうございます(笑)。
松尾:生まれはどちらでしたっけ?
かすみ:千葉ですね。
松尾:家庭環境はどんな感じでしたか?
かすみ:お父さん、お母さん、おじいちゃん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、妹、犬、私という構成ですね。女ばかりの家族です。
松尾:4人も兄弟がいるのって珍しくないですか?
かすみ:うーん、今だと珍しいですけどね。田舎なので、そういう家庭は周りにも多かったように思います。
松尾:失礼かもしれないですが、4人兄弟の真ん中ってものすごくどうでも良いポジションですよね(笑)。真ん中はアイデンティティの拠り所が無くて、少し変な子になることが多いように思います。
かすみ:そうですね、どうしても親が手を抜くので(笑)。すごく自由である反面、寂しくもありって感じですかね……。
松尾:小学生の時はどんな子でしたか?
かすみ:どちらかと言えば真面目な子だったと思います。ちゃんと勉強もしてましたし。
松尾:それ、かすみさんは良く言いますけど、本当なんですか?(笑)
かすみ:本当ですよ。中学校までは真面目でした。運動神経も良くて、8段の跳び箱だって飛べましたからね。
松尾:親の教育は厳しかった?
かすみ:いえ、勉強に関しては放任主義だったんですけど、さっき話したように「もっと私の事を見て」って気持ちがあったのか、何も言われなくても勉強は頑張っていたように思います。
松尾:なんか疑わしいんだよな~(笑)。で、高校に入ってからはどうなんですか? 公立の高校だったんですか?
かすみ:公立の女子高でした。ちゃんと受験して入ったんですよ。
松尾:進学校? それともちゃらんぽらんな高校?
かすみ:普通よりちょっと頭が良いかなぐらいの感じですかね。
松尾:かすみさんはあまり女子高出身の雰囲気じゃないので意外ですね。女子高出身の女の子ってなんか特有のモノがあるじゃないですか。上っ面というか、客観性に欠けるというか。まぁ、男子校出身の人も別の意味で特有なんですけど。で、高校ではどういう流れで不良になったんですか(笑)?
かすみ:なってないです! 本当に普通の子だったんだけど、性に目覚めてしまいまして……。
松尾:何かきっかけがあったんですか?
かすみ:16歳、高校1年生の夏に初めて彼氏が出来たんです。まぁ、リゾートバイトで知り合ったベタな感じで。
松尾:じゃあ相手も高校生だったんですね。
かすみ:そうです。学年的には同級生だったんですけど、彼はダブってたので実際は1つ年上でした。
松尾:高校生でダブってるって、その彼、ものすごくバカじゃないですか(笑)。
かすみ:バカな高校に通ってましたね(笑)。ヤンキーとまではいかないけど、雰囲気はそんな感じ。
松尾:それで付き合ってすぐやっちゃったんですか?
かすみ:その夏に初めて性的な経験をしたんですけど、その、ちゃんと貫通したのは大人のおもちゃだったんです……。
松尾:最初は上手くいかなかったってことですか?
かすみ:相手のモノが大変立派でして……。私も初めてで怖かったし、力も入っちゃうし。なので、ずっと上手く出来なかったんですけど、「このままじゃフラれちゃう!」とか当時は思っていて、お姉ちゃんが持っていた大人のおもちゃを使って自ら貫通させました(笑)。
松尾:なかなか見上げた根性ですね。軽く泣けますよ(笑)。でも、かすみさんは本当に真面目なんですね。彼氏にフラれるかもと思ったからって、そんなことを出来る人は中々いないと思います。
かすみ:その時はとにかく必死だったんですよ。
松尾:そのことは彼氏に伝えてない訳でしょ?
かすみ:もちろんです。
松尾:その努力の甲斐あって、エッチを覚えてから、ダメな子になってしまったと(笑)。
かすみ:不良になったとかでは無いんですけど、勉強しなくなっちゃったんですよね。
松尾:いやいや、そこは両立出来るでしょ(笑)。良い大学に行ってる人、全員童貞じゃないですからね。その理論はあまり通用しないですよ(笑)。
かすみ:一時期そういう時期があったってだけです! 高校3年間そうだった訳じゃないですよ。
松尾:卒業後の進路は?
かすみ:千葉のトリマーの専門学校に行きましたね。
松尾:それは何故?
かすみ:大学に行くと勉強をしなきゃいけないから、それが嫌で。で、自分の好きなものって何だろうって考えた時に犬が思い浮かんだので、トリマーが良いかなと。
松尾:まぁ、大抵理由なんてそんなもんですからね。だいぶAVに近付いてましたね。
かすみ:そうですね、専門に入って2年が経って、卒業手前くらいでAV女優になりました。
松尾:専門学校には真面目に通ってたんですよね?
かすみ:バイトと学校の往復でしたね。女の子しかいなかったですし。実家から通っていて、髪も染めちゃダメ、スカートも履いちゃダメですごく厳しい学校でした。それで卒業も近づいて、「このままで良いのかな」とか思いながら就職活動をしてたんですけど。
松尾:AV業界に入ることになると。
かすみ:ちょうど就職活動をしているタイミングで友達がAV女優になろうとしてて、その子に頼まれて、スカウトマンの話を一緒に聞きに行くことになったんですよ。その時、私はAV女優になる気なんて全然無かったので、その子の代わりに「お給料いくらもらえるんですか?」とか「この子、胸小さいんですけど大丈夫ですか?」とか色々聞いてたら、「そんなに知りたいなら、事務所の人に直接聞きにいこう」って、何故か私が行く羽目になりまして。で、いざ事務所についたら、友達は「私、やっぱりいいや」とかいって帰っちゃって、私1人で事務所に取り残される状況で。
松尾:そこで奥から怖い人が出て来て「姉ちゃん、責任とれやぁぁぁ!!」みたいな(笑)?
かすみ:いやいや、全然(笑)。事務所もIT系のオフィスみたいにすごくキレイで、紳士的にAV業界のことについて説明してくれました。
松尾:かすみさんがデビューしたのって2005年ですよね? その頃ってAV業界が良い意味で企業化、適正化した時期なんですよ。90年代のAVメーカーってマネージャーも基本的に偽名だし、事務所も雑居ビルの1室で、2年おきに住所が変わるみたいな感じだったんですけど、2000年代に入ってから大きく変わっていくんです。事務所も綺麗になって、ちゃんと企業化していって、そういう意味ではAV業界自体がすごく良くなった時期ですね。かすみさんみたいに普通の女の子が入ってくるくらい、間口が広くなった。
かすみ:たしかに考えていた”AV”のイメージとは全然違ってビックリしましたね。安心感がありました。
松尾:でも、今となっては明るいかすみさんですけど、最初はそうでも無かったんでしょ?
かすみ:そういう子だったんですよね。人の目を見られないし、恥ずかしがり屋でした。今風に言うとコミュ障って言うんですかね? 人見知りもすごくしてました。だから、最初はすごく事務所の人やマネージャーさんに怒られましたね。人の目を見て喋らなきゃダメとか、挨拶はきちんとしないとダメとか。あとは上手く自分をアピールすることが出来なくて、最初は泣いてばかりでした。
松尾:自分をアピールというのは女優としてってことですよね? 女優として出来ない子だったと。
かすみ:最初はそうだったと思います。カメラの前で上手く笑うことが出来なくて。だから周りのスタッフさんからも「この子はすぐ辞めるな」って思われていたみたいです。
松尾:そもそもAV女優になろうと思ったのはどうしてだったんですか? どういう部分に納得したんですかね?
かすみ:とにかく何でも良かったんですよ。就職活動をしている時に、このままトリマーになって、ペットショップに就職して、地味に結婚して子供を産んで、だらっとした体の主婦になるのが、想像出来ちゃって。だから、そこから抜け出して、違う場所に飛びこめるのなら、何でも良かった。自分を変えたいと思ったんです。だからあまり深く考えなかったし、東京は街の流れが早いから、あれよあれよと言う間にって感じですかね。
松尾:でも、”AV”ですからね。いきなり飛び込める人はなかなかいないですよ。
かすみ:基本的に自分の事をかわいいと思ってたんですよ(笑)。でも、それを周りにアピールする自信も無いし、アピールの仕方も分からない。振り返ってみると、さっきお話したように「私を見て」って欲求は小さい頃からあったんでしょうね。
松尾:満たされて無かったんですね。
かすみ:自信が欲しかったのかもしれませんね。嫌だったらすぐに辞めれば良いと思ってたし、本当に深くは考えていませんでした。
松尾:実際にこの世界に飛び込んでみて、色々と感じることはあったと思いますが、ここまでAVを続けて来られた理由はどんなところにありますか?
かすみ:なんというか、喜びがあったから、最初に「もう1本やってみよう」って思ったんですよね。やったことにすぐ反応があるじゃないですか。写真にも出るし、評価にも出る。だから、スタッフさんがちょっと褒めてくれたりすると、それが少しづつ自信にも繋がって。自分のダメな部分が良く分かるんです。初めて撮影をする前は、自分はもっと上手く喘げると思ってたし、フェラももっと上手に出来ると思ってたんですよ。でも、いざカメラの前に立つと汗ばかりかいて何も出来なくて(笑)。AVですけど、周りの人たちが真剣に良い作品を作ろうとか、可愛くしてあげようとかしてくれているのに、そこに付いていけなかったのが悔しかったんです。
松尾:女優さんってどういう風にモチベーションを保つのかなと思って。例えば僕だったら、発注を貰ったプロデューサーさんを喜ばせようと思う訳。ユーザーはそれぞれ好みが違うから何とも言えないけど、仕事をくれた人が満足してくれれば良いかなと。
かすみ:最初に教えてもらったのは、AVだって人と人が作るものなんだから、ただセックスしてれば良いんじゃなくて、初めて会う人が「また仕事したいな」って思うような人になりなさいってこと。人との繋がりを大事にしなさいって言われて、この業界で育ってきました。そういう意味では、人としての生き方を教えてもらった感じですかね。だから、全然エロくはなれなかったんです(笑)。
松尾:妙にきっちりしちゃってね(笑)。すごく良い環境で育ったんですね。
かすみ:「いい子だからもう1本撮ってあげようかな」って思われたのかもしれませんね(笑)。
松尾:まぁでも、物事の順序としては間違ってはいないですよね。映画でもAVでも、何でもそうだと思うんですけど、良いものを作るには、人として土台が出来ていないと無理なんですよね。格好良いビルを作るには、基礎工事をきちんとしなければならない。僕たちで言うなら、現場での立ち居振る舞いとか、編集とか地味な作業をコツコツとやらないと良いものは急に出来ない訳です。そんなかすみさんが自信を持てるようになったのはいつ頃からですか?
かすみ:本当に最近のことですよ。「今日は出来たな」と自分で思えていたらもっと早く辞めていたと思います。
松尾:自分に厳しいタイプ?
かすみ:もっと出来るっていう驕りがあったのかもしれません。
松尾:撮影が終わってから反省して、壁を殴ったりすることもあった?
かすみ:いや、それは無いです(笑)。「もうちょっと出来たらな~」とかは思いますし、「次頑張ろう」とも思いますけどね。周りに対して100で応えたかったんですよ。だから、100で応えられない自分に常にモヤモヤしていました。
松尾:周囲の人から「AV女優」として見られることで色々と辛い思いをすることもあるかと思いますけど、今までで一番辛かったことは?
かすみ:それはやっぱり親にバレた時ですね。説得は出来なかったです。というか、説得出来る人なんていないと思う。最終的には言い張るしかなかったです。AVに関して、私は誰にも相談せずに1人で決めたんですよ。それまでは自分の進路を親や友達に相談したりもしていたので、AVは初めて自分1人で決めたことだったんです。だから、初めて自分で決めたことだからこそ、迷惑をかけてしまうけど、自分の意見を曲げたくなかった。「ここで辞めたら自分を否定してしまうことになるから」って言い張るしかなかったんです。
松尾:そうなんですよね、親を納得させることなんて無理なんですよ。でも、それを自分の言葉で親に伝えられるかどうかっていう部分が結構大事で。AVに限った話では無くて、それが自立なんですよ。はっきり自分の考えを自分の言葉で伝えないと親は子離れしないし、子も親離れしない。当然、言われた親はショックが大きいけれど、その後のリリースは結果的に早くなるんです。親以外の人からも何か言われたりはしましたか?
かすみ:もちろん同級生からからかわれたり、嫌な事を言われたりもしました。最初の頃は地元の集まりにも顔を出せなかった。けど、今となってはみんな大人ですし、同窓会にも普通に行きますよ。
松尾:かすみさんがAVデビューした頃は丁度「AV女優ブーム」みたいな時期で、恵比寿マスカッツとして地上波のテレビで活動していたりもしましたけど、ああいうのはモチベーションに繋がったんですか?
かすみ:なった部分もあるし、逆効果な部分もありましたよ。テレビは表の世界で、AVはその真逆にある世界。テレビの私しか知らない人もいるし、AVの私しか知らない人も当然いる訳で、そうすると自分が何者なのか良く分からなくなっちゃったりもして。私はセックスをしている自分で表現をしていきたいと思っているけど、テレビのイメージが強くなることで色々と弊害もあったんです。
松尾:でも、軸足はAVが良いと思ってたんだね。AVを卒業して、芸能の方に行きたがる女優さんもたくさんいるじゃないですか。
かすみ:テレビに出たいっていう願望はありましたよ。だからマスカッツに入ったんですけど、そっちでやっていきたいとは思いませんでしたね。テレビでの仕事は色々な経験が出来るから楽しかったけど、AVから抜け出したいって気持ちは無かったです。
松尾:じゃあAVをやっていて嫌だなと思ったことはこの11年間で一度も無いの?
かすみ:そんな訳ないですよ。彼氏が出来た時とか、親に言われた時とか、嫌な思いをすることだってたくさんあります。でも、仕事中に思ったことは一度も無いかな。
松尾:傍から見てるとさ、かすみさんは面白いし、別に脱がなくても良いんじゃないの?って思う人もたくさんいると思うんだよね。
かすみ:自分がやりたいことと、他人に評価されることって違うんだなってつくづく思いますね。「引退したら芸人になるんでしょ?」って色々な人に言われるんです(笑)。
松尾:僕は既に聞いているんですけど、引退後はどうするんですか?
かすみ:「普通の女の子に戻ります」(笑)。
松尾:ということで。タレントになる訳でも無く、「かすみ果穂」を消滅させるんでしょ?
かすみ:だって私はAV女優だからテレビにも出ることが出来た訳で、ただの女の子だったら絶対に出る事なんて出来なかったと思うんですよ。だから、AVを辞める=全てを辞めるってことな訳で。自然とそういう結論に至りました。
松尾:かすみさんはそこが格好良いんですよね。引退してもタレントとして活動していきたいなんて子は一杯いますけど、僕も同じでAV監督を引退して映画を撮るかと聞かれたら、絶対に撮らないと思う。僕は僕なりに身の丈を分かっているつもりだから。きっとAVを辞めて本気で映画を撮っても「大したことないじゃん」って言われるような作品しか撮れないんですよ、本当に。それにAVって枠が外れたらもっと良いモノを作らなきゃいけないっていうプレッシャーも感じてしまうだろうし、何よりセックスが重要だから。それを外されるのは正直苦しい(笑)。かすみさんもそうでしょ?
かすみ:はい、苦しいですね(笑)。
松尾:引退作が4月に発売されますけど、そもそも何で辞めるんですか?
かすみ:辞めるんですよ。決めたらから辞めるんです。
松尾:なんかその言い方には、どうしても未練が残っているように感じてしまうんですけどね。
かすみ:「辞めなきゃ」って思いから入って、「辞める為にはどうしたら気持ちよく辞められるかな」ってことをずっと考えてたんです。それで悔いの無いように行動に移したのが、この1年間って感じ。
松尾:読者の方の為に補足を入れると、かすみさんはこの10年間、ほぼ拘束状態(特定のメーカー専属の立場)でやって来たんですけど、この最後の1年でその拘束を外して、色々なメーカーから作品をリリースしたんです。だから去年から今年にかけて、たくさんの作品がリリースされて、AV OPENっていう日本一のAVを決める大会に、なんとかすみさんの作品が7本もエントリーされるという異常事態が起こりまして(笑)。一部の関係者から「かすみ祭り」なんて言われたりもしてね。実際、この1年間はどうでしたか?
かすみ:すごく楽しかったですよ。
松尾:そうなんですね、外から見てると月に1本ぐらいの方が楽そうに見えますけど。
かすみ:もちろん身体的には大変ですけどね。今までずっと単体でやって来たんですけど、この1年で初めて共演ものにも出たんですよ。正直、そこで一度心が折れたんですよね(笑)。今まで私1人を撮っていたカメラが他の子たちに分散された時に、私は自分をどうアピールすれば良いのか、全然分からなかったんです。10年が0になったんですよ。0からのスタート。だからこそ、この1年はとにかくがむしゃらになれました。
松尾:0になってから、また1年やろうと思えるのがかすみさんの凄さですよね。この1年で立ち上がった感はあるの?
かすみ:ありますね! 今までとは違う表現方法になりましたけど、私のやりたいように最後は出来たかなと。今はすごく満足しています。見る人にとっては、最後落ちるところまで落ちて辞めるんだなって思われるのかもしれないですけどね。
松尾:まぁ、更に深い話については発売されたばかりの僕の最新作『世界弾丸ハメドラー ピリオド、そして春 かすみ果穂』で補足されているので、興味のある方はそちらをチェックしてみて下さい。って、最後ちゃっかり宣伝させてもらいましたが(笑)。
かすみ:そうですね、そういう意味では引退作っぽい引退作になっているかもしれませんね。4月に出る作品は、あくまでAV女優としての引退作って感じなので。ぜひそちらも合わせて見て頂ければと(笑)。
松尾:最後にちょっと意地悪な質問をするけど、もし自分に将来娘が出来て、その子が「AVやりたい」って言い出したらどうしますか?
かすみ:良い事も悪い事も、自分の経験を踏まえて全て話すけれど、それでもやっぱりやらせないと思います。ちょっとリスクが大きすぎるかな。私はたまたま良い環境でお仕事が出来たけど、みんながそういう風にいくとは限らないし、私はたまたま自分を変えるキッカケがAVだったけど、もしあの時、他にそういうキッカケを探せばたくさんあったんだと思う。だから、自分の娘にはもっと違うところがあるよって教えてあげるかな。
松尾:じゃあ、もし自分が生まれ変わったとしたら、またAV女優になりますか?
かすみ:ならないですかね。今話したようにリスクがあるってことを感じていますから。
松尾:これが彼女の面白いところなんですよね。AVのリスクをちゃんと感じているし、ある種、恥だとも思っているんです。
かすみ:そりゃあ、恥ですよ。お仕事だから堂々としていますけど、言えないことだってたくさんある。客観的に自分を見ないと。
松尾:そういう葛藤や矛盾を内包しながら、それでもAVをやっているのが魅力的なんですけどね。でも、それももう終わりですね。けど、皮肉なことにかすみさんの作品はVHSでは無く、DVDでしかリリースされていないんです。ということは半永久的に世に残りますから、皆さん、これを読んだ後からでもかすみさんのことを追いかけてみて下さい。
かすみ:11年前ですからね。今と全然違いますけど、ぜひ(笑)。
■今月の”カレー” 「渋谷ムルギーのムルギーカレー玉子入り」
昭和33年創業の歴史あるオリジナルカレー。この天高くそびえ立つライスの盛り付けは諸説ありますが、初代店主がネパールかカトマンズ(インドではない)でカレー修行したのでチョモランマをモチーフにこの形になって、カレーに乗るゆで玉子は雲を現してると。ああ、いい話じゃないですか。そんな歴史をかみしめていただくムルギー、初代おじいちゃん&おばあちゃんの時代から通ってます。写真ではわかりにくいですが、ここの福神漬けには刻んだ紅ショウガが混じってます。これが好きで、自宅で真似してカレーのお供にしてます。好き嫌いは別にとにかく一度は食べるべしです。
AV監督。1965年愛知県生まれ。1987年、童貞でAVメーカーV&Rプランニングに入社。翌88年、監督デビュー。特技はハメ撮り。趣味はカレーとバイク。1996年、V&Rを退社しフリーとなり、2003年、自身のメーカーHMJM(ハマジム)を立ち上げる。代表作として『私を女優にして下さい』、『テレクラキャノンボール』など。また一般作としてミュージシャン・豊田道倫のPVやライブ撮影を手掛けている。