THA BLUE HERBの一分

by Mastered編集部

THA BLUE HERBの最新ライヴDVD『ラッパーの一分』がリリースされた。2時間40分に渡って収録されているのは、tha BOSSがソロアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP』リリース後に行われたツアーの最終日、恵比寿 LIQUIDROOMで行われたライヴの一部始終だ。日本のヒップホップが何度目かの暑い季節を迎えている2016年、重厚な玉をど真ん中に投げつける作品に、ILL-BOSSTINOはどんな思いを込めたのだろうか?

Photo:Shin Hamada、Interview&Text:Yu Onoda、Edit:Keita Miki

フリースタイルで「こう思うんだよね」っていう曲を出すより、2時間40分のライヴをノーカットで出すことで何かを提示出来るんじゃないかなって思った。(ILL-BOSSTINO)

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— tha BOSS名義のソロ『IN THE NAME OF HIPHOP』収録曲をライブで披露するようになって、その反応はいかがですか?

BOSS:全国どこのライヴも内容、反応ともに素晴らしかったし、アルバムリリース後に回った全12公演のツアー最終日、昨年末のLIQUIDROOMは「お客さんが1000人も入ると、ここまでになるのか」っていうくらい反応が断トツで。ライヴの集団心理、要するに一体感ってことなんですけど、お客さんが多ければ、多いほど、一体になった時に得るものは大きかったですね。

— そのライヴで、THA BLUE HERBの曲に加えて、ソロ曲をやるとなると、意識の上で変化はありましたか?

BOSS:THA BLUE HERBの前作『TOTAL』を出した時のツアーでアルバムの曲を全部やったかというと、そういう訳でも無く、既存の曲に新曲を組み合わせて、ライヴを組み立てたんですね。でも、今回DVDになるLIQUIDROOMでの公演では、ソロアルバムの曲を全部鳴らしてみたくて。それを実践したライヴであり、今年に入ってからも、ずっとライヴを続けるなかで、LIQUIDROOMではやったけど、その後、やってないという曲も沢山あるので、その点では今までにない試みですね。自分の活動というのは、最終的には何もかもがTHA BLUE HERBの活動に組み込まれ、集約されていってしまうので、ソロアルバム・リリース後の12本のライヴだけは、ソロアルバムの曲を全部やろうと思ったんですよ。ツアーに出てしまうと、結局はパーソナルなアルバムを出した後であってもTHA BLUE HERBのライヴということになるので、ソロアルバムの自伝的な内容というのは作品を作ったことで一度終わって、ライヴではTHA BLUE HERBとして俺らのことを知っているお客さんとの対峙になってくるので。ステージに立ったら、すぐにTHA BLUE HERBに戻った感じです。

— 客と対峙する瞬間ももちろんあると思うんですけど、ワンマンライヴに足を運ぶのはTHA BLUE HERBのリスナーですし、ステージから吐き出される言葉を受け止めに来ているとも言えるわけで、そうした状況の変化はかつてのTHA BLUE HERBとは異なる部分なのかな、と。

BOSS:ある一線を越えないと、お客さんは心を開かないから、押したり引いたりがあるんだけど、LIQUIDROOMのライヴに関しては、お客さんの瞬発力が高くて、感情の峠を越えるまでの時間が短かったとは思います。それは長くやってきたからということもあるし、LIQUIDROOMのライヴが年末12月30日だったこともあって、お客さんのなかにも独特の解放感があったり、色んな要素が影響しているのかなとも思いますけどね。

tha BOSSのアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP』

tha BOSSのアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP』

— ライヴ中盤、”44 YEARS OLD”にはYOU THE ROCK☆がゲストで登場しますね。

BOSS:あのシーンには痛みがあるよね。

— あの曲をカットすることは考えなかったんですか?

BOSS:ゲストで出てもらった3人には「ライヴDVDとして残したいんだけど」って話をして、B.I.G. JOEと般若は多分大丈夫だろうなって思ってたんだけど、YOUに関してはカットするだろうなと思ってたよ。でも、彼がそのまま使えって言ったから、俺にとっては驚きだったね。ステージの怖さだったり、ラッパーのああいうシーンが映し出されることは滅多にないし、見た人、それぞれに解釈があると思うけど、「味わってきた色んな屈辱や挫折を含めて、これが自分だから、映像を使え」って言ったわけだからね。ある意味、YOU THE ROCK☆はまだまだ闘ってるんだと思うよ。

— さらに言えば、もう2人のゲスト、B.I.G. JOEと般若の存在も示唆的だと思いました。

BOSS:そうだね。20数年前は、俺とB.I.G. JOEが札幌の路上の話を東京のお客さんの前で話して、それを聴いた人がアガったり、自分に置き換えて何かを感じてくれる、そんな時代が来るとは思わなかったし、般若は般若でバトルでも大きな役割を背負ってるなかで、こうしてお客さんの前でライヴを続けながら、作品もリリースしてるからね。同じヒップホップでも、2時間40分語り尽くしたLIQUIDROOMのライヴは、16小節を吐き捨てるMCバトルの対極にあるものだと思ってるし、そのMCバトルのトップにいる人がああやってステージに出てきて、一緒に楽曲をキックしてくれたわけだから。ありがたい限りです。

— MCバトルは、多くの人がヒップホップを知る絶好のタイミングだと思うんですけど、それがヒップホップの全てではないですからね。

BOSS:俺もそう思うよ。だから、そういうちょうど良いタイミングで、この作品が出せたんじゃないかな。昔は審査員がいるような世界ではなかったけど、自分自身もYOU THE ROCK☆だったり、すでに活躍していたラッパーを削って出てきたし、今の若い子たちがMCバトルにチャンスを見出して切磋琢磨しているのは、かつての自分とほぼ同じなんだけど、今の俺はそこから19年後のヒップホップをやっているわけだから、フリースタイルで「こう思うんだよね」っていう曲を出すより、2時間40分のライヴをノーカットで出すことで何かを提示出来るんじゃないかなって思った。THA BLUE HERBは、さんピンCAMPの人たちがいた東京に対して、地方から一つの勢力として出てきたんだけど、僕らはいわゆる日本のアンダーグラウンドヒップホップの世界でのし上がって来たから。そして、追われる身になってからも、色んなムーヴメントを見てきて、MCバトルもその一つだと思うし。ただ、おっしゃっているようにあれがヒップホップの全てだというほどヒップホップは甘くないし、浅くもなくて、取り上げるだけ取り上げたら、また新しいものを探しにいくのはメディアの性だからね。そういう意味じゃ、ここでDVDを一本残しておくほうが、MCバトルが流行ってた時にこういう作品を残したラッパーがいたっていうことでいいかな、と。

— 作品に語らせる、と。ゲームのやり方を変えて、例えば、MCバトルに敢えて出てみるという選択肢はあり得ないんでしょうか?

BOSS:ないですね。俺にしてみれば、MCバトルで誰かと戦う理由があるのか? って感じだから。俺はこないだも『橋の下世界音楽祭』でヒップホップのアーティストは自分しかいないところに出ていって、真っ昼間でまだ何も起きてないところでやってきたし、eastern youthと竹原ピストルに挟まれて、ライヴをやったり、俺は俺で負けられないバトルをやってるし、自分がいま熱中しているバトルの方が俺にとっては難しくて、挑み甲斐があると思ってやってますね。

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【THA BLUE HERB 『ラッパーの一分』】
発売中
LABEL:THA BLUE HERB RECORDINGS
CAT NO.:TBHR-DVD-007
FORMAT:DVD(トールケース、デジパック仕様)
価格:3,241円 + 税
収録時間:2時間45分
監督:川口潤
http://www.tbhr.co.jp/

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