MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回登場するのは、4月20日にファーストアルバム『Pushin’』をリリースしたばかりのビートメイカー、STUTS。
2010年ごろよりビートメイカーとして、Young Drunker、RAU DEF、ZONE THE DARKNESSなど数々のラッパーにトラックを提供。ザ・なつやすみバンドやAldred Beach Sandalらのリミックを手掛けるなど、多方面で活躍。その一方でMPCプレイヤーとしてのパフォーマンスにも定評があり、2013年2月にニューヨーク・ハーレムの路上で行ったMPCライヴのYouTube動画は20万回以上の再生回数を記録。そのエモーショナルなグルーヴは海外のリスナーをも魅了している。
そして、長らく待望されていたアルバム『Pushin’』においては、多方面にわたる交流を反映し、盟友のKMC、PUNPEEやJJJ、KID FRESINO、Campanella、K.Lee、呂布カルマといったラッパー、Alfred Beach SandalやCHIYORIといったシンガーをフィーチャー。90’sヒップホップの影響が色濃いサンプルオリエンテッドなトラックはハードコアなヒップホップ・リスナーからインディポップ/ロック・ファンまで広範な支持を獲得した。そんな彼に行ったインタビューと初めて制作したというDJミックスを通じて、プロデューサーとしてのバランス感覚に秀でたSTUTSの音楽観に触れていただきたい。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
小手先だけのトラックとその人の気持ちが入ってるトラックの違いは、聴いているとなんとなく分かる気がしますからね。
— 4月にリリースしたファーストアルバム『Pushin’』は、注目のラッパー、シンガーをフィーチャーしつつ、ヒップホップど真ん中の熱いトラックからメロウな歌モノまで非常にバランスが取れていて、ビートメイカーであると同時にプロデューサー的な感覚が研ぎ澄まされた作品ですよね。
STUTS:ありがとうございます。特定の方向性に偏った作品にはしたくなかったというか、ビートの太さやあたたかみのあるアナログな鳴り、サンプリングの質感とか、そういう自分の好きなテイストを軸に、自分の好きな要素を詰め込んだら、こういうアルバムになった感じです。
— STUTSの大きな特徴である(サンプラー)MPC1000を用いたプロダクション、そのスタイルが象徴する90年代のヒップホップと出会ったのはどういうきっかけだったんですか?
STUTS:90年代のクラシックヒップホップにハマったのは、中学3年生の時にCDショップで偶然聴いたA Tribe Called Questの「Buggin’ Out」がきっかけなんです。当時は打ち込みのヒップホップが主流で、周りにはそういうヒップホップやブラックミュージックが好きな同級生は一人もいなかったし、高校は寮に入ってて、ネットが使えなかったこともあって、雑誌のBLASTやサンプリングの元ネタ集を読んだり、レコード屋の店主さんに教えてもらったりしながら、一人で探求してましたね。
— 音楽の聴き方も今の時代にしては珍しくアナログな聴き方だった、と。トラックを作るようになったのは?
STUTS:高校1年ですね。MPC1000を買って、トラックを作るようになりました。高3は受験勉強があったので、一時トラック制作は封印してたんですけど、受験が終わってからまた作り始めるようになって。大学進学で上京してすぐ、mixiで知り合ったラッパーのライヴでバックDJをやったり、自分のデモを色んな人に配っているうちに、Fla$hBackS結成前のJJJやYoung Drunkerと現場で知り合って、ちょうど2009年くらい、20歳の時に初めてYoung Drunkerにトラックを提供しました。そして、そのビートを聴いたRAU DEFやZONE THE DARKNESSからトラック提供の依頼をいただいたり、ちょっとずつ活動範囲が広がっていった感じです。
— 今回のアルバムにも参加しているJJJとは古い付き合いなんですね。
STUTS:そうですね。彼とは同い年ということもあるし刺激を受けていました。出会った当初は、よく僕の家で最近聞いている音楽の話をしたり、レコーディングしたりしてましたね。
— そして、楽器のようにファンキーなグルーヴを生み出すMPC使いはSTUTSの大きな魅力であり、武器でもありますが、ビートライヴをするようになったのは経緯は?
STUTS:上京したての頃は、ビートメイクとDJの2本柱だったんですけど、もっと、自分の作った曲をみんなに聴いてもらいたいなと思った時、YouTubeでHIFANAやAnticonのJelがMPCを叩いてライヴをやってる動画に出会って、自分でも練習しはじめたのがきっかけです。
— トラック制作とMPCライヴを平行して行いながら、面白いところでは、2012年にシンガーソングライター、寺尾紗穂さんの「私は知らない」でビートプログラミングを手掛けてますよね?
STUTS:あの曲は寺尾さんのアルバムに参加することになったDARTHREIDERさん経由で「弾き語りの曲でBPMが合わないから手伝って欲しい」って頼まれたんですよ。
— 作る音楽はヒップホップにこだわっていない?
STUTS:いえ、あくまでヒップホップを軸に考えているんですけど、まだ自分がやったことなかったことだったし、単純に面白そうだなって思ったから、やってみたっていう感じなんです。ヒップホップを軸としたブラックミュージックのエッセンス、グルーヴがあって、その中に自分の色を出せるものを作れればと考えています。
— アルバムに参加しているAlfred Beach Sandal、親交のあるミツメやザ・なつやすみバンド、ceroの音楽にもブラックミュージックの影響がありますもんね。彼らのようなインディ・バンドとはどういう経緯で知り合ったんですか?
STUTS:転機になったのは、ニューヨーク・ハーレムの路上でやったビートライヴなんです。大学の卒業旅行でニューヨークに行った時、ライヴハウスでライヴ出来ないかなって思いつつ、滞在期間が1週間と短かったので、ニューヨークに住んでる先輩に相談したら、「それだったら、路上でライヴやったらいいんじゃない?」って言われて。そのライヴの動画をYouTubeにアップしたら、それを観たタツさん(仲原達彦:後にSTUTSのA&Rを務める)がウェブで紹介してくれたことをきっかけに、さらにceroやミツメの方々が観て下さったみたいで。
その直後に新木場のSTUDIO COASTでやったライヴイベント「Booked!」に一緒にブッキングされていたceroの方々やAlfred Beach Sandalさんと話すようになって、そこから交流が始まったんです。ミツメに関しては、実はベースのナカヤーンが小学校の同級生で、実家が近所だったので、家に遊びに行って、ポケモンカードをやったりしてて(笑)。大学に入ってから、ミツメで活動していることを知ったんです。
— まさか、ナカヤーンがトレーナー友達だったとは!
STUTS:バックDJをやるようになってから一緒に組むことが多いKMCもそうですが、今回のアルバムに参加してくれた人は昔から面識があって、なおかつ、自分が尊敬してる人、好きな人を集めた感じというか、逆に言えば、今回のアルバムで面識がない人とやるつもりは全くなかったんです。
— もう一点付け加えるなら、フリースタイルバトル全盛の時代、上手いラッパーは増えたと思うんですけど、ラップの上手さは音楽性の高さと必ずしもイコールではないじゃないですか。その点、この作品に参加しているラッパーやシンガーはみんな音楽的に研ぎ澄まされたセンスの持ち主ですもんね。
STUTS:そうですよね。ラップとビートメイクを両方手掛ける人が増えたのもそういうことだと思いますし、僕自身、昔から色んなシチュエーションで音楽を聴きながら、自分の気持ちを高めたり、癒やしたりしてきたんですけど、そのなかでも悲しい時や悔しい時に音楽から力をもらうことが多くて、ビートを作る上ではそういうエモーショナルな部分が自分にとっては大きい気がします。
— 普段は大人しいのに、MPCライヴをやってる時のSTUTSはものすごくエモーショナルだったりするし。
STUTS:まぁ、普段抑えているわけではないんですけど、溜まっているフラストレーションをぶつけているというか、解放している感じなんですよね。ビートに関しては、とりあえず手を動かすところから作り始めたりもするんですけど、なんとなく作るんじゃなく、自分がホントに好きなものを妥協せず限界までこだわって作るべきだなって思うんですよ。
— ビートメイクに関して、今はチュートリアルやマニュアル的なものがある時代というか、扱いやすい機材を器用に使いこなして、みんな、そこそこのレベルのトラックが容易に作れるようになっているからこそ、徹底したこだわりが問われるというか。
STUTS:ただ形にした小手先だけのトラックとその人の気持ちが入ってるトラックの違いは、聴いているとなんとなく分かる気がしますからね。僕は過去に何度かグループに入ったこともあるんですけど、自分が納得できる作品を突き詰められないのが嫌で辞めてしまったこともあったので、今回の作品は自分のやりたいことを徹底的に突き詰めて、そのこだわりを作品に出来たことが本当にうれしかったです。Alfred Beach Sandalさんも手掛けている我喜屋位瑳務さんにこちらのイメージを伝えて形にしてもらったアートワークも含めて気に入ってますね。
— ちなみに我喜屋さんにはどのようなイメージをお伝えしたんですか?
STUTS:漠然としているんですけど、地平線、水平線、街や夕焼けの風景、あと感情がほとばしってるような、そういうイメージですね。
— それが全て具現化されていると同時に、STUTSのエモーショナルな部分がぎゅっと凝縮されている、と。アルバム終盤にはPUNPEEをフィーチャーした「夜を使いはたして」が収録されていますが、夜更かし賛歌であると同時にヒップホップの新たな夜明けについて歌われているこの曲についてはどんなことを思いますか?
STUTS:個人的には、ここ3、4年、くすぶっていたというか、アルバムのことが片隅にありつつ、なかなか形にならない、そんな日々を過ごしていたので、今回のアルバムが完成して、すごく長い夜が明けたというか、ようやくスタートラインに立てたなって思ってますね。ヒップホップの夜明けという意味では、フリースタイルバトルの盛り上がりで、それまでヒップホップを知らなかった方達にもMCバトルが受け入れられている一方、音楽的にかっこいいラッパーやビートメイカーがどんどん出てきてて、面白いことになっているし、日々刺激を受けてますね。
— ライヴでは、ミツメやシャムキャッツ、KONCOSと競演しつつ、GRAPEVINE「SPF」のSTUTSリミックスが無料配信されたばかりですが、今後の活動に関してはいかがですか?
STUTS:トラック提供やリミックス、ライヴ活動をやりつつ、あくまで自分の作品作りを主軸に活動していきたいと思ってますね。当面は時間やバランスを上手く取るのが課題かなと思っています。ちなみに、今回作ったミックスは、朝~夜までの夏の一日をテーマとしたので、これからの季節、いろんなシーンでその流れをゆったり楽しんでもらえたらうれしいですね。