Photo:UG | Interview&Text:Yu Onoda | Edit:Keita Miki
— Puma Blueは、スタジオアルバムより先に、ライブアルバム『On His Own(Live at Eddi’s Attic, Atlanta)』を発表するなど、ジャズミュージシャンがそうであるように、ライブに重きを置いた活動を行ってきたという印象を受けます。
Puma Blue:まさにその通り。ライブではスタジオでのレコーディングよりもっと大きな表現が出来るし、そこでしか起きない一瞬一瞬の親密さや特別な輝きやきらめきがステージにはあるよね? 僕は色んなライブアルバムを聴いて、ライブには魔法のような瞬間があることを知ったし、ライブ活動中心のアーティストから影響を受けながら育ってきたからね。
— お気に入りのライブアーティストというのは例えば?
Puma Blue:僕のフェイバリットはJeff Buckleyだね。1枚しかスタジオアルバムを出していないのは残念だけど、ライブアルバムは沢山リリースされていて、しかも、一つとして同じものがない。聴いただけで、この時の彼はこういうムードなんだなと気持ちの違いもよく分かるし、大きい会場のライブなのか、小さな会場でのライブなのか、その違いも音源から手に取るように分かる。そうやって異なるシチュエーションで放たれる彼のエネルギーがすごく特別なものを感じるんだ。
— ライブ表現を重視しつつ、2021年のファーストアルバム『In Praise Of Shadow』をほぼご自身の手で制作されたのは、コロナのロックダウンの影響が大きかった?
Puma Blue:そうだね。2018年にセカンドEP『Blood Loss』をリリースした後、それまで積み重ねてきたライブ経験を踏まえて、この先はライブエレメントを盛り込んだ作品を作ろう!と意気込んでいたところで、コロナのロックダウンに直面して、自分の意気込みが宇宙をつかさどる大きな力に否定されたように感じたよ(笑)。その結果として、ほぼ全てのパートを自分で手掛けた『In Praise Of Shadow』は当初の意図から大きく逸脱して、静かで親密な作品になった。ただ、自ら全てを手掛けるにあたっては、本当に沢山のことを習得する必要があったし、そうやって試行錯誤のなかで身につけたものは今回の作品にも反映されているわけで、今となっては自分はそういう運命だったんだなと納得しているし、その時の経験に感謝しているよ。
— 静かで親密な作品のトーンを生み出してきたPuma Blueのミニマリズムに則った表現スタイルについてどんな考え方をお持ちですか?
Puma Blue:ミニマリズムというのは難しいよね。音をどんどん削ぎ落としていくと、空虚な表現に陥る場合もあるし、かといって空間を無駄な音で埋めたら、ミニマリズムではなくなってしまう。そうしたバランスを見極めながら、僕が何もない白紙の空間を大事にしているのは、何もないスペースにおいては豊かな何かが起こりえる可能性が大いにあるから。そして、静謐な空間があるからこそ、リスナーが想像力を膨らませる余地が生まれるし、歌詞で逐一説明しなくともリスナー1人1人が解釈して、その曲を自分のものにすることが出来るんだと思う。
— そして、『In Praise Of Shadow』は密室的な作品でありつつ、今をときめくミックスエンジニアのMarta Salogni(マルタ・サローニ)とマスタリングエンジニアのHeba Kadry(ヘバ・カドリー)を起用したことで、立体的で重層的な音響表現を追求できたアルバムでもあって、音響表現にこだわった経験が多くのプレイヤーを迎え、ライブエレメントを盛り込んだ最新アルバム『Holy Waters』に活かされていますよね。
Puma Blue:僕はBurialやRadioheadのように、一音一音から固有のムードが立ち上ってくるような音響表現にこだわったアーティストが好きなんだ。だから、ライブ表現と同じくらいのパッションをもって、漫然と出した音を録音するんじゃなく、プロデューサー、エンジニアを吟味して、その音から立ち上るムードを含めて捉えるプロダクションにこだわってきたつもり。特に最新作に関しては、明確に異なるライブでしか表現できない音とサンプルでしか出せない音をどうやって使い分けるかということに注力したよ。そして、その経験は一度きりではなく、自分のなかで蓄積されて、最新作もそうだし、次の作品、さらにその先の作品へと継承されていくことになるんじゃないかな。
— 『Holy Waters』はシンガーソングライターとしてのソングライティングとそれを具現化するライブ的なバンド表現に加えて、音響表現という意味において、1990年代のトリップホップの影響も色濃い作品ですよね。
Puma Blue:そうだね。自分の音楽はBon Iver(ボン・イヴェール)やElliott Smith(エリオット・スミス)のような宅録によるソングライティングにジャズの影響を加えるスタイルで始まったんだけど、最新作『Holy Waters』ではElliott SmithやJeff Buckleyのようなソングライティングをベースに、沢山のマイクを立てたスタジオに色んなミュージシャンを呼んで、ライブスタイルのレコーディングを行うことで、宅録より自由な広がりがある音や予想しなかったハッピーなアクシデントを捉えることが出来たと思うし、それによって前作『In Praise Of Shadow』以上にジャズのスピリットを宿した作品になった気がする。そのうえで、最新作で一番大きな影響を受けたのはPortisheadなんだ。彼らの作品はサンプルと生楽器がミックスされているよね。そして、すごく完成された音にも関わらず、敢えて、ローファイな質感を出してみたり、ノイズ空間において、ぽつんとボーカルが浮かび上がっていたり、彼らの作品は今聴いても音響表現が際立って聞こえる。だから、ビートやサンプルによって楽曲を構築しつつ、前作のようなワンマンプロダクションではなく、参加プレイヤー全員が作品に貢献するスタイルで今回の作品を作るにあたっては早い段階からPortisheadの作品が念頭にあったんだ。
— そして、アルバムは張り詰めたテンションの前半から激しくエモーショナルな中盤を経て、浄化されるような、解放感が感じられるような後半へと至るストーリー性が感じられます。
Puma Blue:今回の作品のリリックは意図せず、自分が感じているものを素直に表現した結果、死や深い悲しみがテーマのアルバムになったんだ。でも、深い悲しみの癒やしのプロセスってまさにそういうものだよね。最初は否定するところから始まって、その後、感情の高まりや沈み込むうねりがあり、最終的には痛みや苦々しい感情が溶解して、受け入れられるようになる。そういう受容のプロセスを意識して、曲を書いたり、曲順を考えたわけではないんだけど、自分が経験してきた感情の変遷が無意識的に作品に反映されてしまったということなんだろうね。
— この作品で描かれている死や深い悲しみ、そういうものに対する執着がどこから生まれたものなんでしょうね。
Puma Blue:具体的に何があったというわけではなく、曲を書き進めていくうちに、死や深い悲しみが湧き上がってきた感じ。だから、『不思議の国のアリス』でいうところのウサギの穴に飛び込むような感覚で、自分自身に向き合って、感情が湧き上がるままに任せたんだ。
— つまり、ご自身の深いところから湧き上がってきたのが今回の作品であると。
Puma Blue:そう。音楽が安易にカテゴライズされる音楽業界やメディアにおいて、自分の音楽は説明しづらかったりするんだろうけど、(胸を叩きながら)ここの奥底から来ている音楽という意味で、自分の音楽はソウルミュージックだと思っているよ。その一方で、僕は自分そのものである音楽をあまりに無防備に晒しすぎているような気もして時々怖くなったりもする。ただ、自分はずっとこういうやり方で音楽をやってきたし、リスナーとしての自分はディープなソウルを包み隠さず気前良くリスナーと分かち合ってきたアーティストに惹きつけられてきたから、そうしたアーティストに倣って、音楽家としての自分はみんなに魂を差し出すことで、作品やライブを心から楽しんでもらえたらうれしいね。
発売中
レーベル:BIG NOTHING / ULTRA VYBE
価格:2,500円 + 税
https://pumablue.co.uk/