クリヱヰター百鬼夜行 Vol.5 熱海から日本全国の観光地へ。50年後を見据えるLEGECLAのモノづくり

by Nobuyuki Shigetake

群雄割拠の1億総クリエイター時代に於いて、一際異彩を放つクリエイターを紹介する『クリヱヰター百鬼夜行』。第5回に登場するのは、ホテルや喫茶店など、老舗の土産をプロデュースする新進気鋭のブランド・LEGECLA(レジェクラ)
熱海市への移住者ら5名が手掛ける同ブランドだが、お土産開発を核に、観光PRやブランディングをはじめとした地域貢献、街おこしに一役買い、現在、熱海を出発点に全国各地へと波及している真っ最中だ。
今回はそんなLEGECLAのお土産プロデューサー・横須賀馨介とデザイナーの鶴田勇磨に、彼らの拠点である熱海にてインタビューを実施。彼らのクライアントである老舗店舗やリゾートホテルらへの取材を通し、観光という行為の新たな光を観ることができた。

Photo:Shunsuke Imai | Text&Edit:Nobuyuki Shigetake | Special Thanks:ホテルニューアカオ、Cafe&Restaurant Nagisa、BONNET、サンバード、熱海観光ストアー、ゆしま遊技場

「50年続いたものを、次の100年へと繋げていきたいんです(横須賀馨介)」

LEGECLA
2019年、熱海で結成。横須賀馨介、鶴田勇磨、編集者・ライターの高須賀哲ら5名で活動。

— まず、LEGECLAとはなんぞや、というところからお聞かせください。

横須賀馨介(以下、横須賀):LEGECLAは”LEGEND CLASSICS”の略称で、その地方や地域に根差している、僕らの視点で見たその地域を象徴する老舗や名店となるお店をフィーチャーさせていただき、オリジナルのお土産を作るブランドです。

— 観光という行為に深く紐づいているのかな、と。

横須賀:そうですね。特に観光は”ハレ”の行為だと思っていて。”光を観る”と書くんですよね。幼い頃の家族旅行や新婚旅行、友人や恋人との旅行といった、”ハレ”のシーンの行事。そんな行事の最後に手にするものが、お土産。楽しかった思い出を形として持って帰る、その行為自体に僕はとても愛着を持っていて、観光を担うすべての方からお客さまへ提供できる、一生忘れることができない大切な思い出の記憶に繋がる大事な行為であり、それこそが観光の魅力なのではないかと思っています。

— そんなLEGECLAを代表する事例としてホテルニューアカオのお土産プロデュースが挙げられるかと思いますが、最初にホテルを手掛けたのはどういった思惑があったのですか?

横須賀:観光地にとってホテルや旅館は必ず存在するもので、その土地の象徴となるものです。ホテルニューアカオに関しては、熱海への観光客から、そして地元民からも親しまれている”熱海の顔”と言えるような場所だったし、僕の永遠の憧れでもありました。

— ロゴがすごくアイコニックだし、まさしく熱海の象徴のような存在ですよね。クリエイティブに関して、デザイナーの鶴田さんからお聞かせいただけますか?

鶴田勇磨(以下、鶴田):ホテルニューアカオに限ったことではないのですが、LEGECLAは基本的には既にあるお店のロゴや看板のデザインを使用してプロダクトに落とし込んでいます。老舗の店舗さんはそれこそ、50年、60年と看板になっているロゴを持っていて、店主さんや従業員の方にとってそれは愛着を超えて、日常、人生の一部になっているもの。ホテルニューアカオは、熱海という街の象徴であり、僕らからすると、もはや景色として捉えている部分もあって。そういうところに魅力を感じていて、長年、自分にとっても特別なロゴ、デザインでした。ニューアカオをもじって、”ホテルニューアタミ”っていう、熱海のあれこれを載せたZINEを作っていたこともあるくらいで(笑)。

ホテルニューアカオ
25万坪のリゾートに佇む、熱海の街が一望できるクラシックエンターテイメントホテル。同ホテルの、そして熱海のシンボルである真っ赤なネオンは熱海人曰く「見ると熱海に帰ってきた、って気分になる」。そんなランドマーク的なロゴを大胆にオン。

アカオリゾート公国のエンブレム内、南側に記されたマーメイドロゴを用いたポロシャツ。クラシックロゴTシャツと比べて、より玄人好みのデザイン。

横須賀:鶴田くんにとってホテルニューアカオが熱海の象徴だったように、住民や、他県から訪れる多くの観光客にとっても、宿泊はせずとも目に焼き付いている、熱海の景色だと言えると思うんですよね。

— LEGECLAにとって、ホテルニューアカオは殊更特別な場所だったということですね。

横須賀:そうですね。僕たちとしては必ず手掛けたいと思っていた場所だし、今、僕たちが手掛けてこれから先もみんなで守っていかなければいけない、そんな素晴らしい場所だと思っています。ご提案させていただいた当初、ホテルニューアカオとしては、このロゴや内装の諸々は普段見慣れてしまっているせいか、特別なものという認識は少なかったようで、「本当に売れるのかな?」と心配していたんです。でも、僕らをはじめ、多くの観光客にとっては熱海観光の風景を象徴する特別なものである、ということをしっかりとご説明をさせていただき、理解してもらい、嬉しいことに実際にお土産自体も売り上げ伸ばしていったことで自信を持てるようになったとお聞きして、とても嬉しい想いでした。

鶴田:僕らは移住者や二拠点生活者で構成されているので、外からの視点でも見ることができたのかなと思いますね。あとは実際に自分たちがホテルニューアカオのTシャツを着たかったっていうのもあります。

— それがいかに特別であるかを持ち主に知らせるというのは、外の人ならではの視点ですよね。

横須賀:実際に一緒にお取り組みをしている中で、いわゆる”みんなが憧れているのは東京のクリエイティブである”ということだけではないと分かりました。むしろ、”地域オリジナルのクリエイティブ”を求めている地方のクライアントさんがとても多いんです。首都圏で流行っているように見えるものをそのままなぞってしまうとどうしても本来あるべきその地域の文化や歴史、風土や景色などの素晴らしいものが失われ、中身のない浅いものが出来上がってしまう。そうでなく、もっと感情移入して、それでいてフラットに見ることが大切なんです。スタイリッシュな雰囲気に仕上げることだけを目的にせず、街の温かみや空気感を出したいという要望を理解し、地域の歴史、文化やその文脈を理解した上でモノづくりをするのには、その土地で暮らし、自らがその土地に根付いて愛着を持たないとできないのではないかと。

— ちなみに、ホテルニューアカオでは現在どのようなアイテムをラインナップしているんですか?

横須賀:Tシャツ、ポロシャツから始まり、いまではラインナップを拡充してバスタオル、手ぬぐい、トートバッグも作っています。

熱海といえば温泉。温泉といえばバスタオルと手拭いってことで、新商品ながら人気商品に仲間入り。

「何それ? かわいい!」って言われること間違いなしのトートバッグはしっかりとした素材感でマチもあるので、通勤などにも最適。

— 手ぬぐいとトートバッグはロゴだけでなく、海側から見た建物外観のイラストレーションが使われていますね。

鶴田:象徴的なニューアカオの外観も上手く形にできないかな、と思って。

— ロゴを用いたアパレルやグッズを展開するのって、これまでにも多くの人がやってきたことだと思いますが、イチからデザインもできるのが、LEGECLAの強みだったりするのかもしれませんね。

鶴田:そうですね。ただあくまで、必要に応じて、って感じです。差別化するためにデザインを考案することはもちろんひとつの手段だとは思いますが、まずはお店のロゴを尊重し、そのお店にマッチするプロダクトを提案しています。

フロントのお土産売り場でも大々的にフィーチャー。チェックアウトのタイミングは老若男女で混み合う。

— それでは、2店舗目に行ったのは?

横須賀:サンバードですね。ホテルニューアカオと同じく熱海を象徴する場所で、サンビーチに来た観光客が必ず目にする、僕ら自身も足繁く通っていた大好きな喫茶店です。

鶴田:カウンターの奥にある鳥のロゴがすごく素敵で、灰皿(編集部注:現在は禁煙)、マッチ、コースターなどのお店の備品がどれもすごく粋だったんです。そういったものに触れると、持ち帰って普段から使いたいな、と思ってしまうんですよね。それで、Tシャツのデザインを何型か出して、というところから始まりました。

サンバード
サンビーチを見下ろすことができるオーシャンビューな喫茶店。ロゴはもちろん、店舗外観もとてもアイコニック。現在はTシャツのほか、トートバッグも展開。

— 実際に出来上がったものは、お店のロゴをボディに配したシンプルなものになっていますね。

横須賀:お店さまの大切な想いの詰まったロゴを使わせていただくということなので、その想いを大切にするにはどうやって表現するかを第一に考えています。たとえばTシャツだとしたら、ロゴの大きさやボディのカラー、ボディの素材はどうするのか。鶴田くんにはデザインから実際のアウトプットまで、お店さんに説明してもらいながら、密なやりとりと共に進めてもらっています。もちろんロゴ自体に素晴らしい力があるので、それをとても大切にしながら。どのアイテムにも、僕らならではの愛着とこだわりが沢山詰まっていますね。

— 現在はゆしま遊技場、BONNET、熱海観光ストアー、Cafe&Restaurant Nagisaと、次々と展開店舗を増やしていってますが、実際にプロダクトを作る上で念頭に置いていることなどあれば聞かせてください。

BONNET
かつて三島由紀夫も愛したという、熱海の老舗中の老舗喫茶店。やや小ぶりなクラシックなハンバーガーが名物。
Tシャツはお店のメインロゴである、ヨーロッパの伝統的な帽子・ボンネットを被った女性のシルエットを大々的に使用。

同ロゴをトートバッグにも使用。「ボンネットの店内には完成されているデザインがたくさん散りばめられています。いくつかデザイン案を出したのですが、店主としては愛してやまないメインのロゴ一択だったようです(鶴田)」

鶴田:あくまで僕らは”作らせてもらっている”ということを忘れないようにしています。絶対に押し付けるようなことはしないし、自分の作家性もなるべく出さないように。店主に納得してもらった上でお店に置いてもらえないとダメだなって。もちろん手に取ってくれる人たちがいるから僕らは続けていられるわけだけど、それ以上にお店のために作りたい、という気持ちが強いですね。

横須賀:僕らはずっと”ロングセラーを作る”ということを意識し続けていて、まさしく鶴田くんが言っている通りですね。50年続いたものを次の100年に繋げていくためには、お客さんに愛されるより先に、まずはお店にその商品を愛してもらう。今の時代、流行に合わせて”流行っているデザイン”のものを作るのは簡単なことだけど、それよりも、ずっとそのお店にあり、長年愛されてきたようなものを作っていけたらなって。

ゆしま遊技場
熱海に現存する唯一の遊技場。大胆なバックプリントは、店内の壁にも貼られている弓と的をモチーフとしたグラフィックデザイン。

熱海観光ストアー
熱海銀座に位置する椿油とお酒、お土産物の専門店。現在は廃盤になってしまった、ショッパーに描かれていたイラストを落とし込んだトートバッグは全2種展開。

— たしかに、良い意味で売るために作っていないというか、お店の雰囲気をそのままに落とし込んでいますよね。

横須賀:”昭和レトロ”がブームであると言われることが多いのですが、僕らとしてはそういったブームがあるからやっているというわけではなく、どの時代にも素晴らしいものは沢山あって。その価値が変わらずにこの先もずっと在り続けていられるようにしていきたい、という想いでやっています。

鶴田:熱海は特に海に面しているからか、街に溢れるデザインにもどこか共通項があるように感じますね。

Cafe&Restaurant Nagisa
1947年創業の老舗コーヒー店。船の汽笛をBGMにしながら2階テラスで堪能するランチ、ディナーは格別。Tシャツはウィメンズ向けに2種のデザインをラインナップ。

— 昨今のコロナ禍や『GO TO トラベル』などで振りまわされがちな旅行業界ですが、こういったお土産が現地に足を運ぶきっかけになると良いですよね。

横須賀:そうですね。熱海に観光に来て、楽しかった思い出と一緒に僕らが作ったお土産たちを持って帰ってもらえたらとても嬉しいです。着るたびに、使うたびに楽しかったあの瞬間の思い出や記憶が呼び起こされて、それをきっかけにまた大切な人たちと旅行に出かけたり、自分の子ども世代や次の世代に受け継いでいくように、素晴らしい大好きな光景をみんなで守っていくことが出来たら、僕らにとってこれ以上に嬉しいことはないですね。