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Photo:Kazuki Miyamae | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
■Track List
01.michael bundt – whose eye is the sun
02.yo la tengo – ashes
03.moebius & plank – rastakraut pasta
04.p’cock – telephone song
05.vono – der zauberer
06.throbbing gristle – 20 jazz funk greats
07.adrian younge – black noise
08.michael bundt – terrania
09.altin gun – yolcu
10.arp – pastoral symphony : I.dominoes II.infinity room
11.adrian younge – suicidal love
12. ferrante & teicher – mermaid waltz
13.裸のラリーズ – enter the mirror
14.syrinx – hollywood dream trip
— 今回のDJミックスは出戸さんが生まれて初めて制作したものなんですよね?
出戸:はい。僕はDJミックスを聴く習慣がなく、DJ(ミックスの)カルチャーについても詳しくないんですよね。聴いたことがあるミックスは田我流の『墓場掘士』くらいなので、DJミックスがどんなものか正確に理解しないままチャレンジしてしまいました。
— このミックスはただ好きな曲を並べて、フェードイン、フェードアウトで繋いだものではなく、抽象性の高い曲のミックスによって、言葉では表しがたいムードやストーリー性を具現化したものですね。どんなイメージをもとに曲を選び、ミックスしたんでしょうか?
出戸:その制作は台風19号の影響でライブが2本中止になり、ごっそり時間が空いたタイミング。「まさに今から台風が来るぞ」というところから、次の日の朝、各地で起こった洪水についてネットで知ったところまで。その間に僕が感じたこと、災害としてのリアリティを感じる前の空気とリンクした内容になりました。
— その内容に関して、OGRE YOU ASSHOLEがリリースしたばかりのアルバム『新しい人』とのリンクについてはいかがでしょうか?
出戸:ゆったりしたBPMであるとか隙間を活かした音作りであるとか、そういった部分に共通するものがあるとは思います。
— 音のテンションも高すぎず低すぎず、ぬるま湯に浸かっているような。
出戸:あと、今回はアルバムのプロモーションで選曲したり、プレイリストを作ったりする機会が多くて、ただ好きな曲で作ってしまうと他で選曲したものと被ってしまいそうだったので、このミックスを作るにあたっては、さっき言ったテーマを設けた上で、さらに自分もまだ知らない曲で作ろうと思いました。なので知らない音楽を発掘する作業に1日費やして、そのなかから制作時のムードに合う曲をピックアップしました。割合的には選んだ曲の7割くらいが、台風の中、家に籠ってネットを駆使して知った曲ですね。
— OGRE YOU ASSHOLEは70年代のクラウトロックの影響を公言されていますけど、P’cock、Vonoをはじめとする”ノイエ・ドイチェ・ヴェレ”、つまり、1980年代のジャーマン・ニューウェーブ期の曲がピックアップされているところが大きな特徴ですよね。
出戸:そうなんですよ。選曲の時点ではアーティスト名や曲名を全く気にせず、どんなバックグラウンドの音楽かも知らずに音とアートワークだけを頼りに聴いて、最後、リストにまとめる時にバックグラウンドを調べたら、たまたま、ジャーマン・ニューウェーブ期に発表された曲がいくつもあって。ジャーマン・ロックは聴きますが、ジャーマン・ニューウェーブはあまり聴いてこなかったので。今回の僕らのアルバムに少し通じるものや、自分がいい感じだなと思える質感のものがジャーマン・ニューウェーブ期の曲が多いんだなと知ることができました。
— しかも、選ばれたアーティストの多くがバンド形態ではなかったりするという。
出戸:4曲目のP’cockの”Telephone Song”は唯一バンド感がある曲だったりするんですけど、ここで使っているのはオリジナルではなく、DJユースにエディットされたものだったりするんですよ。
— バレアリックシーンで活躍しているイギリスのDJ、プロデューサー、Muddが主宰するレーベル、Lengからリリースされたものですね。1曲目と8曲目に選ばれているドイツの電子音楽家、Michael Bundt(マイケル・ブント)もダンスミュージックシーンで再評価されていますし、3曲目のMoebius & Plank”Rastakraut Pasta”もDJにプレイされている曲だったり、出戸さんのミックスもダンスミュージック的な感覚から遠くないように思いました。
出戸:へぇー。どういったDJがかけているんですか?
— 例えば、DJ HarveyやAndrew Weatherall(アンドリュー・ウェザオール)とか。ハウスやテクノから逸脱したオルタナティヴな、レフトフィールドなダンスミュージックをプレイするDJたちですね。ドイツのデュッセルドルフには”ポスト・クラウトロックシーンのハシエンダ”と評されるクラブ、Salon des Amateursでレジデントを務めているJan Schulte(ヤン・シュルテ)というDJがいるんですけど、彼は1980年代に活躍したドイツの音楽家たちが夢想した熱帯雨林のドラム・ミュージックをまとめた『TROPICAL DRUMS OF DEUTSCHLAND』というコンピレーションアルバムをリリースしていて、出戸さんのミックスにも通じるところがあるというか、DJユースとして作られていない音楽をDJユースしているところが近からずも遠からずの内容だったりするんです。
出戸:そういうシーンがあるんですね。すごく良さそうですね。僕は現行のダンスミュージックは全く聴いていないんですけど、ギターの馬渕に教えてもらった1970年代から80年代にニューヨークにあったSAMというディスコ・レーベルのものは好きなものが多かったです。他にはロックやニューウェーブと接点があってダンスミュージックと呼んでいいのかどうか曖昧な音楽からは影響を受けているので、その辺りは、もしかすると通じるところがあるかもしれないですね。
— さらに有名どころでは、Yo La TengoやTHROBBING GRISTLEの曲がピックアップされていますけど、どちらも特定のジャンルに収まりきらない音楽性ですよね。
出戸:そうですね。Yo La Tengoは、アルバムごとに色んなジャンルのアプローチで作品制作をしていますけど、借り物では終わらず、最終的にはどの作品もYo La Tengoの音楽になっているというか、彼らの音楽にしかないムードが間違いなくありますよね。どことなくチャーミングで、でもそれがどうしてなのか、はっきり言えないところに魅力があります。2曲目に選んだ”Ash”が収録されている彼らの最新作『There’s A Riot Going On』もSly & The Family Stoneのアルバム・タイトルとほぼ一緒ですけど、音楽的にスライっぽいかというと、全くそんなことはないんですが、この時代のこのタイミングで『暴動』と訳されたタイトルと同じものをつけている事に、考えさせられるところもあって。THROBBING GRISTLEは、一般的にはインダストリアル・ミュージックのパイオニアとして評価されていますけど、『20 JAZZ FUNK GREATS』を初めて聴いた時、ジャケットとタイトルのせいもありますが、B級というか、ゲテモノ感の強いエレクトロニックミュージックという印象だったんですね。だって、ジャズファンクでもなんでもないのに、ジャズファンクのベストアルバムを茶化したようなヒドいタイトルですし(笑)、ジャケット写真もお花畑になんとも言えない格好の男女4人が笑顔で立ってたり(笑)。でも、ずっと何かが引っかかっていて、よく聴いてしまいます。
— そして、12曲目のFERRANTE & TEICHERは、これだけ年代が離れていて、1954年作のイージー・リスニング音楽ですよね。
出戸:この曲が入っているアルバム『Soundproof – The Sound Of Tomorrow Today!』はピアノによるイージー・リスニングなんですけど、(イギリスのカルト・プロデューサー)Joe Meek(ジョー・ミーク)と(現代音楽家の)John Cage(ジョン・ケージ)がプロダクションに関わっていて、録音がちょっと変わっているんですよね。これはライブで台湾に行った時、予備知識なくジャケ買いしたら、内容もすごい良くて、作品のバックグラウンドにも驚かされたアルバムです。
— そういうアルバムを台湾で入手しているところも出戸さんらしいというか(笑)。
出戸:ちなみにこの曲には、台風関連のニュースの副音声で流されていた英語の同時通訳の音声を重ねてあって、9曲目のAltın Günも曲の最初の15秒くらいをずっとループさせて、そこにも音声を重ねてあります。
— 曲をミックスしただけではなく、加工もされている、と。ちなみにこのAltın Günは、トルコのサイケ音楽に影響されたオランダのバンドなんですね。
出戸:あ、そうなんだ。全然知らなかった(笑)。普通に東欧のサイケバンドだと思ってました。曲を聴いたら、エキゾチックに展開していく、その手前のイントロが特に格好良かったので、その部分をループさせたんですよ。
— はははは。タイファンクに影響を受けたアメリカのバンド、Khruangbinもそうですけど、思いがけない音楽のクロスオーバーは時空を歪ませますよね。そして、時空が歪んでいるといえば、Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)やCommon(コモン)、Jay-Z(ジェイ・Z)ほかを手がけるヒップホップのプロデューサー、Adrian Younge(エイドリアン・ヤング)のアルバム『The Electronique Void(Black Noise)』からピックアップした2曲、7曲目の”Black Noise”と11曲目の”Suicidal Love”もまさにそういう曲ですよね。
出戸:この人はヴィンテージにこだわっていて、昔の機材を使って、アナログテープに録音した作品を量産していて、音の質感が好みなんですよ。
— しかも、このアルバムはKraftwerkにインスパイアされた作品ですよね。
出戸:あ、そうなんですね(笑)。確かにこの人は60年代、70年代のソウルやファンクを忠実に再現した作品が多いですけど、このアルバムはサイケでダークな作品ですよね。でもKraftwerkは感じなかったなぁ。
— サイケといえば、13曲目は日本が世界に誇る伝説のサイケデリックバンド、裸のラリーズの”Enter The Mirror”がピックアップされています。
出戸:ラリーズは発掘音源を何枚か聴いたくらいで、そこまで詳しくはないんですけど、FERRANTE & TEICHERの”Mermaid Waltz”と同じくキラキラした水面を思わせる曲を探していた時にふと思い出してピックアップしました。
— 今は裸のラリーズがApple MusicやSpotifyで聴ける時代じゃないですか。音もさることながら、その事実に感覚が揺さぶられます。
出戸:はははは。昔は発掘音源がそれぞれ入手困難で、聴くことすら大変でしたからね。まぁ、でも、この曲はラリーズにまつわるバックグラウンドを抜きにして、水中から水面を見ているような質感を醸し出している曲を求めた結果、辿り着いたものなんですよ。音楽を聴く時は、誰でもある程度、バックグラウンドや文脈込みで聴いてると思うんですが、DJミックスはそういったものを一旦フラットにする感じがします。DJミックスの流れで聞くと、そういった曲本来の意味が消え去って別のもののように感じる時がありますよね? ラリーズのこの曲はミックスの流れで聞くと特に印象が違って聞こえました。こうした曲本来の意味を無視してリズムや質感で感覚的に全体を作っていく感じは、ただプレイリストを作るのとも違い新鮮でした。
開催日時:2019年11月4日(月) OPEN 17:00 / START 18:00
開催場所:EX THEATER ROPPONGI
料金:4,200円(前売・1Fスタンディング)、4,700円(前売・スタンド指定席)