Vol.95 Black Boboi – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Yu Onoda and Keita Miki

MasteredがレコメンドするDJのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回ご紹介するのは、スティールパン奏者としてKID FRESINOやD.A.N.のサポートほか、多方面で活躍する小林うてなを擁する3人組バンド、Black Boboi。
小林うてなとトラックメイカーにしてシンガーのermhoi(エルムホイ)、ODEOの一員にしてシンガーソングライターのJulia Shortreedからなる3人が2018年に始動。同年6月に発表した2曲のシングル”Sleepwalk”、”Between Us 2”を経て、今年1月にリリースしたファースト・ミニ・アルバム『Agate』は、ミニマルなビートとゴシックなサウンドスケープ、そして美しく浮遊する3声のボーカルが長編SF映画を思わせるハイパーモダンでシュールリアルな音楽世界へと聴き手を誘う。
今回は、サウンドはもちろんのこと、アートワークや映像も含めたトータルでのアート性の高さが各方面で話題となっている彼女たちにインタビューを敢行。また、現在行っているツアーのファイナルである3月28日(木)の代官山UNITでのライヴを目前に控え、これが初めてというDJミックスの制作を依頼。ミニアルバム『Agate』に通じる音の流れを辿って、代官山UNITにぜひ駆けつけて欲しい。

Photo:TAKAHIRO OTSUJI | Interview&Text : Yu Onoda | Edit:Keita Miki

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

「音数も断腸の思いで削ぎ落として(笑)。(ermhoi)」

— ミニマルなサウンドと黒で統一されたステージ衣装、ライヴの抑えたライティングも相まって、非常に謎めいた佇まいのBlack Boboiですが、まず、この3人はどのような経緯で集まったんでしょうか?

小林うてな:一堂に会したことはなかったんですけど、この3人は数年前からそれぞれ知り合いではあって。2018年にレーベル(BINDIVIDUAL)を立ち上げる時に、ソロで活動していた2人に声をかけさせてもらったんです。ただ、その時点でバンドを組むことになるとは誰も思っていなかったよね?

ermhoi:そうそう。最初はコンピレーションを作ろうという話だったんですけど、その流れから共作してみようということになり、試しに集まってみたんです。

Julia Shortreed:そうしたらパッと面白い曲が出来たので、コンピレーションじゃなく、この3人で作った作品を出そうということになり、グループ名を考えているうちにだんだんバンドになっていったという。

— そのバンド結成の自然な流れはこれ以上ないくらい理想的ですね。

Julia Shortreed:以前、私は、男3人、女2人でバンドを組んだことがあって、スタジオで曲は作ったんですけど、その後、メンバーが抜けたり、ライヴをやる前に活動が終わってしまったんです。だから、バンド自体に興味はあったけど、活動するのが難しいことも分かっていたし、まして、女性だけのバンドを組むことを考えたこともなかったんですけど、やってる音楽が大好きだった2人と何か一緒にやったら、化学反応で面白いものが生まれそうな気がしたし、最初から「バンドをやろう」ってことじゃなく、まず、曲を作るところから始めたのが良かったのかもしれないですね。

— Juliaさんは、ソロとして映画『海街diary』の劇伴やドラマ『わたしを離さないで』の劇中歌を手がける一方、フォークトロニカデュオ、ODEOの一員として、múm(ムーム)のGunnar Örn Tynes(グンネル・ティーネス)と制作したシングル”White Crow”をリリースされていますよね。

Julia Shortreed:私は、学校の軽音部でヴォーカリストとして参加したバンドで音楽活動を始めて、自分でも音楽を作りたいとは思っていたんですけど、当時は楽器が出来ず、表現手段が歌しかなかったので、音楽を形にする方法が分からなくて。その後、出会ったプロデューサーの作ったトラックで歌ってみたりもしたんですけど、アイデアはあっても、音楽を形にする手段をもたないヴォーカリストには、歌う以外の選択肢はないのかなって長らく思い悩んだ末に、「曲を作ろう!」と思い立って、ギターを始めたんです。それで、2年くらい日本語で曲を作って歌っていたんですけど、どうもしっくりこない。そこでメロディや日本語であることを意識せず、歌ってみた生のままのメロディと英語詞が自分にとって自然であることが分かって、ようやく自分のスタイルが見つかったんです。そうやって、かなりの遠回りをして、今はギターと歌を軸に、Ableton Liveで作ったトラックにシンセを足して曲を作っています。

— 一方、ermhoiさんはジャズフィールドで活動しているバンド、Mr.Elephantsに所属しながら、ソロ活動をされていますよね。

ermhoi:Mr.Elephantsは、メンバーが離れた土地に住んでいるので、いまは活動が停滞しているんですけど、もともとは私が主体的に運営しているわけではなく、大学の先輩に誘われて加入したバンドなので、自分の音楽とは分けて考えていて。ソロはソロで、ゆくゆくはバンド形態でやってみたいなと思いつつ、曲作りをしていたら、この3人で曲を作ろうということになったんです。

— しかし、ermhoiさんはジャズドラマーの石若駿くんの『Songbook』シリーズをはじめ、ものんくるや桑原あいさんといったジャズ畑で活躍しているアーティストとコラボレーションをしながら、2015年に発表したご自身のソロアルバム『Junior Refugee』はフリーフォームなエレクトロニックミュージックに根ざした作品だったりして、バックグラウンドが謎めいています。

ermhoi:はははは。私にとっても、なんで、石若くんとかものんくるのようなジャズやポップスに寄った方たちから声をかけてもらえるのか不思議なんですよ。

— ただ、ジャズ畑の難曲を歌いこなせる柔軟さと、ご自身が作るエレクトロニックミュージックのフリーな在り方は相通じるものがあるように思いました。

ermhoi:ジャズは父が大好きで、子供の頃から聴き親しんできましたし、大学でもジャズ研でトランペットを吹いたり、歌ったりもしていて、そんな私の歌や曲作りのフリーフォームなアプローチがジャズ畑の方々にフィットしたのかもしれないですね。エレクトロニックミュージックに関しては、ジャズ研に入った時期に、テクノやエレクトロニカ、ノイズ、ドローンをやっている人たちとも知り合って、彼らの見よう見まねでAbleton Liveでの曲作りを始めたのがきっかけなんですけど、Ableton Liveは直感的に曲作りが出来るし、私自身、色んなジャンルを幅広く聴くので、吸収した全ての要素を曲作りに反映させていって、今に至るという。

— そして、うてなさんはフジロックのルーキーステージにも出演したバンド、鬼の右腕の解散後は、スティールパン奏者として、D.A.N.や蓮沼執太フィル、KID FRESINOバンドなどのサポートを務めながら、ソロで活動されています。

小林うてな:紆余曲折あったんですけど、自分の置かれた環境を変えるためにBINDIVIDUALを立ち上げて、この2人と音楽を作るようになった2018年は、人と深く繋がりながら音楽を作る楽しさを再確認したというか、勉強し直した1年だったんですよね。

— うてなさんも、ermhoiさん同様、音楽遍歴が込み入っていて、幼少期からリコーダー、合唱、ピアノを習い、打楽器を学んでいた大学ではガムランに傾倒したり、マリンバ、スティールパン、その後、DTMを扱うようになったりと、表現の広がり方が尋常じゃないですよね。

小林うてな:はははは。でも、結局のところ、私は子供の頃の原体験をずっと引きずっているだけなんですけどね。

— 原体験?

小林うてな:私は子供の頃に観た映画『フィフス・エレメント』と『アイズワイドシャット』、コールドカットのミュージックビデオ”Timber”と坂本龍一の地雷撤去ドキュメンタリー『ZERO LANDMINE』の衝撃的な世界観にとらわれているし、一生とらわれていたい自分がいるから、どの楽器を弾いても、その影響が自分のなかでグルグル回っていて。そこから派生したキーワードが”受難”、分かりやすく言うと“泣きながら笑う”というテーマでソロ活動をしていたんですけど、数年前にEDMと出会ったことで、それまでの内に内に向かっていた表現のベクトルが反転して外に向かうようになったんです。

— スティールパン奏者であり、トラックメイカーでもあるうてなさんにとって表現の核を成すのは、やはりリズムなんでしょうか?

小林うてな:数年前までは演奏する際に考えて叩いていたんですけど、考えている時点で筋肉が固まったり、わずかなズレが生まれてしまうので、もちろん練習はしますけど、今はリズムアプローチに関して、そこまで意識していなくて、寝ていても、手が動くような状態を理想としていますね。

— こうしてお話をうかがってきて、3人ともソロでの活動においては、生のままの音楽、その自由な広がりを活かそうとされているところに共通点がありますよね。ただ、そうした各人のソロ活動を踏まえて、Black Boboiはミニアルバム『Agate』において、逆に抑制されたミニマルなポップ感覚を追求されていますよね。

Julia Shortreed:そう、この3人がそれぞれやってきた音楽のなかでも1番ポップなものを目指そう、と。それがBlack Boboiなんです。

ermhoi:音数も断腸の思いで削ぎ落として(笑)。

小林うてな:そう、Black Boboiの曲作りは音を削ぎ落としていく作業で、その際に3人がお互い指摘し合う、その基準が近いんです。

Julia Shortreed:それが一緒に作業していて楽しいところでもあるんですよ。

ermhoi:以前、うーさん(うてな)が言ってて印象に残っているのは「曲を1番大事にする」ということなんですけど、その考え方には音楽そのものに対するリスペクトの念を感じて、すごい勉強になったんですけど、1人で音楽を作っていると持ちづらい客観的な視点が、Black Boboiでは3人の調和を1つの基準に、客観的に判断出来るんです。

Black Boboi / Agate
人と人を繋ぐ絆を象徴するパワーストーンの名が作品タイトルに付けられた初のミニアルバム。ダークなサウンドスケープに散りばめられた3人の個性の輝きがSci-fiムービーを思わせる美しくねじれた音の物語を照らし出す。
https://lnk.to/Agate

— それがびしっと筋の通ったミニマルなポップ感覚となり、Black Boboiの美的センス、個性になっている、と。

小林うてな:Black Boboiは、レーベルを立ち上げて、これからやっていこうという気持ちで、その入り口となるコンピレーションを作ろうと始めたプロジェクトなので、そこで突き放すような作品を作るのは違うというか、より多くの人に聴いてもらえたらよくね?って思ったんですよ。

— そして、Black Boboiのミニマルなポップ世界では、歌詞に一貫して流れる映画のようなストーリーがガイドの役割を果たしています。個人的には、ここではないどこかへの逃避行や捕らわれの場からの解放、正気と狂気、AIに対する恋心だったり、そのSF的なストーリー構成は、Netflixで『ストレンジャー・シングス』や『The OA』を観ているような、そんな錯覚を覚えます。

Julia Shortreed:『The OA』!。私、あのドラマの世界観が大好きで、Netflixにハマったんですよ。そういう感想はすごくうれしいですね。

ermhoi:歌詞に関しても3人でイメージを共有して、主人公が置かれた状況、それがどう展開していくのかをまず考えて、それを言葉にして、歌詞に当てはめていったんです。時間がすごいかかるんですけど、その作業がめちゃくちゃ楽しかった。

小林うてな:その時の3人の会話は端から見たら訳分からないだろうね。

Julia Shortreed:はははは。「この農民の気持ちは……」とか「だったら、羊を登場させよう」とかね。

— 映画的といえば、”Ogre”のミュージックビデオは、キューブリックやリンチ、ホドロフスキー、ヘルツォーク辺りに通ずるシュルリアルな、象徴主義的な映像表現は完成度と謎度の高さが突出していて痛快でした。

小林うてな:はははは。私たちも衝撃的でした。

Julia Shortreed:あれはドキドキだったよね。

小林うてな:監督がAdi Putraっていうインドネシアのジャカルタ在住の映像作家だったので、やりとりにタイムラグがあったり、作中に登場する蛇とか、トラブルの連続だったんですけど、なんとか無事に完成したよね。

ermhoi:このアルバムを作るうえでは、いま挙げていただいたような映画監督の作品のようにアーティーな世界観だけでなく、もっとポップなSF、例えば、”Between Us 2”の歌詞は映画『メランコリア』をイメージしたり、3人とも映画やドラマが好きで、その影響もあったりしますし。

Julia Shortreed:好きな映画のとあるシーンの記憶をそれぞれが持ち寄りながら、そこに3人のパーソナルな気持ちを投影することで、ただのファンタジーではなく、聴く人それぞれが解釈をしながら、リアリティをもって響くものになったらいいなって。

— 広がり方が豊かな作品に対して、Black Boboiはグループ名やステージ衣装も含め、ヴィジュアルイメージが黒で統一されていますよね。

Julia Shortreed:グループ名を考えていた時、まず最初に”Boboi”って言葉が出てきたので、そこに色を付けてみようということになり、Yellowが付くグループは沢山いるし、Whiteは秒で否定され、「じゃあ、その逆のBlackは?」っていう流れで、Black Boboiという名前に決まったんです。

小林うてな:そして、決まった後に私の好きなBlackPink(K-POPグループ)と似た名前だと気づいたり(笑)。

ermhoi:個人的な話をすると、フランスの文化に詳しい父親と話していたら、1920年代のフランスは女性が強い時代で、その時代の女性は黒を好んで着ていたそうで、Black Boboiのイメージと重なるものがあると言われて。自立した女性が着る色としての黒のイメージは、ちょっと格好いいなって。

Julia Shortreed:あと、名前を付けた時には気づかなかったんですけど、あとから考えると、黒は何にも混ざらず、男性も女性も着れるニュートラルな服の色なんですよね。だから、ステージ上では性別が判断されにくいし、衣装で目が眩まず、音に集中出来るのがいいなって。

小林うてな:そして、単純に全身黒というのはテンションが上がる(笑)。しかも、ステージ上では3人全員が黒だったりするのが気持ちいいし、「俺たちはチームだ!」って、気持ちが引き締まるんです。

— ステージといえば、1月30日の作品リリースから福岡、京都とリリースツアーを続けてきて、3月28日(木)にはゲストにHOPI、ゲストDJにKID FRESINOをフィーチャーした代官山UNITでのツアーファイナルが控えていますが、どんなライヴになりそうですか?

小林うてな:福岡と京都のライブでそれぞれ違うパワーを頂けたのが、なによりも大きな経験になりました。沢山の方に出会えたのが本当に嬉しかったですし、UNITでの新たな出会い、HOPIのライブとフレシノ君のDJもとても楽しみです。愛をもってあたたかい気持ちで演奏したいと思っています。

Julia Shortreed:福岡も京都も『Agate』を聞いて来てくれてる人がたくさんいて、嬉しかったです!音源以上に何かを受け取って帰ってほしいと思うので、私たちもこのツアーはかなり気合いが入っているし、福岡、京都でもらったものをプラスして、東京でのライヴを楽しめたらと思います。

ermhoi:初めての場所で自分たちの音楽が受け入れてもらえる経験をして、改めて音楽の凄さを感じたし、この思いを早く東京の人にも伝えられるように、精一杯演奏したいです。

— そして、ツアーファイナルを控え、多忙な3人に無理言って制作をお願いしたDJミックスについて、最後に一言お願いします。

ermhoi:3人の選んだ音楽に共通点やそれぞれの個性を見出せてとても楽しいミックスになりました。

小林うてな:今回はSFをテーマに、『Agate』の片鱗をそれぞれが持ち寄りました。『Agate』とはまた違う物語になってたらいいなと思います。

Julia Shortreed:自分が普段好きなものの中からSFというテーマに合わせて選ぶのは面白かったです。3人の選んだものが1つになっていて、楽しんでもらえると思います。

Black Boboi Agate Release Tour

開催日時:2019年3月28日(木) OPEN / START 19:30
開催場所:代官山 UNIT
料金:2,500円(ドリンク代別・前売)、3,000円(ドリンク代別・当日)

LIVE:
Black Boboi
HOPI

DJ:
KID FRESINO