日本語で読むTrue Hip-Hop Stories – Buckshot (of Black Moon)編

by Tomoki Ichikawa and Yugo Shiokawa

KRS-One率いるBoogie Down Productionsの一員で、ソロのラッパーとしても“Call Me D-Nice”というクラシックを残しているD-Nice。現在はフォトグラファーとしても活動する彼が、誰もが知る著名アーティストからブルックリンのホームレスMCまで、さまざまな人物にインタビューを行うヒップホップドキュメンタリー、それが「True Hip-Hop Stories」だ。
2006年から不定期で、D-Nice自身のYouTubeチャンネルにて公開されているこの素晴らしい作品をもっと広く知ってもらうべく、日本語での文字起こしを連載としてお届けする。動画を再生しながら、豊富な独自注釈とともに楽しんでほしい。

初回は、2009年2月に公開されたBlack MoonのMC、Buckshot編をピックアップ。日本のラッパーにも大きな影響を与えたDuck Down Records。そのトップでもある彼が「人生を鼓舞してくれた存在」と表現するKRS-Oneとのコラボレート作品(KRS-ONE & BUCKSHOT『Survival Skills』)をリリースした直後のタイミングに、BDPの同志であるD-Niceを前に何を語ったのか。ぜひ目を向けてみてほしい。

Translation & Text: Tomoki Ichikawa

動画本編

日本語訳

I’m takin’ ya back come follow me
On a journey to see a for-real MC
The mind tricks the body, body thinks the mind is crazy
Whatever’s lazy, once I get the flow I’m Swayze(*1) (*2)
I break, you take
Whatever type of ———— (*3) Buckshot makes

Black Moon “How Many Emcees”
https://www.youtube.com/watch?v=_-eVgV4PzX8

Buckshot
Evil Dee(*4)がビートをいくつか持って来たんです。“Who Got the Props?”(*5)をリリースした直後で、アルバム作らなきゃなって話してたんです。
(”How Many Emcees”を)初めて聴いたときは、「いままでこんな曲聴いたことない」って感じで。すぐリリックを書きました。
アーティストはとりあえずリリック書いてあとから練るっていうやり方もしますけど、だいたいの場合はすごく自然というか有機的というか、自分の中にあったものが出てくる感じですね。

“I’m takin’ ya back…”は、「本物のMCがどういうものか見せるから着いてこいよ」って意味です。
この曲のリリックの中でも、“The mind tricks the body, body thinks the mind is crazy”はみんな特に反応してくれましたね。これは、クリエイティビティとそれを取り巻くごちゃごちゃの衝突を自分なり表現した言い方なんです。クリエイティビティとビジネスみたいなもののぶつかり合いが自分にあれを書かせたというか。
”Whatever’s lazy once I get the flow I’m Swayze”は、フロウを極めたら長居はしない、じゃあな、みたいな感じですね。

パートナーのDru-Ha(*6)と1995年からずっとDuck Down Records(*7)というレーベルをやってるんですけど、自分にとって一番大きなプロジェクトのひとつは…。なんていうか、いまこうやってあなたの前でこんなこと話せるってすごいなと思うんですけど、クリス(*8)と一緒にアルバムを出した(*9)んですよね。
KRS-Oneは自分の人生をめちゃくちゃ鼓舞してくれた存在なんですよ。ちょうど Summer Youth(*10)で働いてたときに『Blueprint』(*11)がリリースされたんです。朝起きて支度して、Little Manって呼んでたラジカセに『Blueprint』のテープを入れて(テープをかけながら)仕事に行ってたんですよね。それが一日のはじまりで。
そんなKRS-Oneと同じ部屋にいて、しかも一緒のプロジェクトでコラボしてるっていうのはとにかく最高でしたね。

Cypress HillのB-Real(*12)ともやりました。彼もベテランの素晴らしいアーティストです。『Smoke N Mirrors(*13)』というアルバムで曲を作りました。

Kidz in the Hall(*14)も大きいですね。過去・現在・未来的な。昔から活動してるベテランもいて、いまがんばってる若いやつもいてっていうのが、エンターテイメント・ビジネスにおけるDuck Downの存在の妥当性を高めてくれてると思います。

いま、黒人が大統領になっていますよね。黒人が大統領を務めていることによって、我々が、我々の音楽が、世間から非常に注目されています。
Rock the Vote(*15)のイベントでPuffy(*16)が上院議員時代のObamaにインタビューしたとき、何が起こってもおかしくなかった。Obamaの政治生命が脅かされたり、「だから言ったじゃないか」みたいな批判にさらされるかもしれなかった。でも、そうはならなかった。

たしかに、アーティストは以前の方が政治的だったかもしれないですね。これからはもうちょっと政治的になっていくんじゃないでしょうか。ついこの前までと比べたら、ラッパーがより政治的になれるような扉が開かれたというか。
新しい動きは バックパック・ラップだとかなんとかみたいな言い方をしてますが、要はなんて名前を付けたらいいのかわからないんですよね。なんでかと言うと、そもそも名前なんかないからなんですよ、「ヒップホップ」以外には。
あるセクションに名前をつけてそれ以外と区別するっていうのは、80年代にはありませんでした。「ヒップホップ」、それだけです。ヒップホップのスタイルがどうこう、ですらない。Hammer(*17)、KRS、Rakim(*18)、L.L.(*19)、それからQueen Latifah(*20)も、なんとかっていうヒップホップのスタイルをやってたんじゃなくて、その人個人のスタイルだったわけで。それがヒップホップの礎なんですよね。

ヒップホップは職業じゃない。才能(その人が持ってるもの)なんです。その才能を、キャリアに変えていく。「配管工じゃなく、工事現場の作業員でもなく」とか、「教師にはなりたくない。弁護士もなんか違う。俺はラップが好きで毎日ビデオ観たり曲聴いたりしてるからラップやりたい」とか、そういうのは違うんですよね。自分の回りには、そういうやつは一人もいない。俺たちは確信を持ってやってました。

注釈

*1: MVでは”Whatever’s lazy, when I get the flow I’m Swayze”とラップしている。

*2: “I’m Swayze”は”I’m gone”のスラングである”I’m ghost”のさらにひとつ先のスラング。映画『ゴースト/ニューヨークの幻』の主演がPatrick Swayzeのため、”I’m ghost”を”I’m Swayze”と言うようになったらしい。お洒落ですね。

*3: MVなどでピーが入る放送禁止用語部分を人力で無音にするというお茶目なギャグ。実際のリリックは”Whatever type of shit the nigga Buckshot makes”

*4: Black MoonのDJ Evil Deeのこと。Evil Deeは、実兄であるMr. Waltと組んだプロデュースチームDa Beatminerzとしても、Black Moonのアルバム『Enta Da Stage』をはじめ数多くの作品に携わっている。

*5: 1992年にリリースされたBlack Moonのファースト・シングル。 https://www.youtube.com/watch?v=58lZYDxHRV8

*6: ビジネス面におけるBuckshotのパートナーであり、Black MoonやSmif N WessunをはじめとするBoot Camp Click(以下BCC)のアーティストのマネージャー的な存在。BCC関連のMVにもたびたび登場する。

*7: BuckshotとDru-Haが設立したレコード会社。ウェブサイトではグッズも購入可能(折りたたみ傘のインパクトがすごい)。http://www.duckdown.com

*8: KRS-Oneのあだ名。KRS-Oneは1980年代に、この『True Hip-Hop Stories』 の制作者でもあるD-Nice、そしてDJ Scott La RockとともにBoogie Down Productions(以下BDP)として活動し、とにかく影響を与えまくった。“How Many Emcees”のフックでスクラッチされている“How many MC’s must get dissed”という声は、BDP “My Philosophy”(https://www.youtube.com/watch?v=h1vKOchATXs)を使用している。また、Duck Down Recordsも、BDPの“Duck Down”(https://www.youtube.com/watch?v=cDyYHIDJ1CQ)が名前の由来となっている。

*9: このインタビューの少し前、2008年にDuck DownからリリースされたKRS-ONE & BUCKSHOT名義のアルバム『Survival Skills』のこと。

*10: Summer Youth Employment Programのこと。SYEPは、ニューヨーク市で毎年夏に実施されている14歳から24歳の若者を対象とした有給のインターンシップ・プログラム。

*11: 1989年にリリースされたBDPのアルバム『Ghetto Music: The Blueprint of Hip Hop』のこと。

*12: Cypress HillのMC

*13: 2009年にリリースされたB-Realの初のソロ・アルバム

*14: Duck Down Records所属の2人組ヒップホップ・グループ

*15: 米国で若者に選挙での投票を呼びかける活動を行っている非営利団体

*16: P Diddy(Puff Daddy)のこと

*17: MC Hammerのこと

*18: Eric B. & RakimのRakimのこと

*19: L.L. Cool Jのこと

*20: グラミー賞受賞歴を持つ女性MC。現在は女優や司会者として活躍。『True Hip-Hop Stories』にも登場してます。