シーズンテーマは”femme fatale fellow”。
経験した事とそこから生まれた感情をストレートに反映し、紡ぎ出される洋服はパーソナルなものであり、その感情が宮下自身そのものであることは確かである。そしてある人格に自分自身を重ね合わせ、擬似的な視点で物事を捉える事は、その感情と存在を共鳴させ、新たなる存在へ昇華させる事を意味する。宮下がその存在そのものに憧れを持つ女性、宮下にとっての”永遠の人”へと擬似的に視点を変え創造するその行為は、メンズ服の持つ可能性を示唆し、性差を超えたドラマティックな物語性をも可能にする。
優美な男性のそばには常に宮下の思う”永遠の人”が存在し、その男性像を作り上げる。
その女性の視点に立ち、その女性が持つバランスでのスーツスタイル、パンツスタイルをメンズスタイルに置き換え作り上げていく。その行為は宮下の持つ理想のシルエットを具現化させ、女性の目線でしか表すことのできないセクシーさとエレガンス、そしてタフネスとジェンダーレスなバランス感覚を表現する。
量感のあるセットアップは、既視感の中に未視感を感じるアンユージュアルなバランスを引き立てる。正統派のアメリカンではないコスチュームとしてのウエスタンの様式を自身の仕立てに引き寄せていく。いつかのナッシュビルへの旅の記憶から着想される現代への反逆と抵抗が、新しい黒の中で”永遠の人”の目線を通して色鮮やかに映し出されていく。
ヨークやポケット、リーフ刺繍にも落とし込まれる稲妻のシェイプ、楽譜とギターの刺繍、チェーンステッチで表現されるメッセージ、カウボーイのテキスタイル、全体に散りばめられたメタファーとしての数々のディティールは、針を刺す痛みにも似た永遠に消えることのない”Teen Spirit”を想起させる。それは決して色褪せることのない感情と創造の共鳴を示唆する。
ただただ無心に「洋服」と向き合う。永遠は「洋服」の側にある。
旅の延長線上に広がる誰も見果てぬ世界は、一体どんな音色を響かせるのだろう。
永遠に時を止めてしまったヒーローがもしもまだその世界で時を重ねていたならば、きっとこんな風にその音を響かせてくれるに違いない。
Fashion Freak Forever.
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