#18 今夜が田中 – 人気DJのMIX音源を毎月配信!『Mastered Mix Archives』

by Mastered編集部

MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する『Mastered Mix Archives』。今回登場するのは「今夜が田中」です。

ヒップホップを中心に、洋邦問わずさまざまな音源を紹介するかたわら、宇多田ヒカルへの求愛ツイートを繰り返すなど、その抜群のセンスと謎の言動が好事家からの熱視線を浴びたツイッターアカウント、@konyagatanaka
本人の実像は誰の目にも触れることがないまま、「T.R.E.A.M.(Tanaka Rules Everything Around Me)」というファンクラブ的な組織まで発足、ついには本人不在のまま田中を愛する人々によるパーティ「田中面舞踏会」の開催にまで発展するという、一種異様な熱量を持ったカルトムーブメントの中心的存在として、現在も独特の存在感を放ち続けています。

そして今回、いまだ謎多き存在である今夜が田中との接触に成功。2012年を締めくくるミックス作成をオファーしつつ、音楽的バックボーンなどについてSkypeによるインタビューを敢行しました。
正体を暴くことが目的では無かったものの、このインタビューと自身のツイートで、田中についていろいろ見えてくる部分も多いはず。それぞれの「田中像」をイメージしながら楽しんでみてください。

※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)

Mastered Mix Archives #18 2012.12 by 今夜が田中 by Eyescream.Jp on Mixcloud

Interview & Text : Yu Onoda
Editor : Yugo Shiokawa

「Local Distance」を作る以前は、遊びで人の機材を触らせてもらう程度。基本的には何もしてなかったですね。ファッションスナップにも縁がなかったですし。

— 不慣れなチャット・インタビューですが、よろしくお願いいたします。

今夜が田中(以下田中):こちらこそ遅れてすいません!

— (笑)腰低い!

田中:基本低いです!

— じゃあ、早速音楽の話から始めますか。

LAMP EYE『証言』
今夜が田中も足を運んでいたというブラック・マンデーから活動を本格化させたドリームユニット「雷」のメンバー総登場によるアンセム的ポッセカット。90年代屈指のクラシック。

田中:最初に好きになったのはボン・ジョヴィとヴァン・ヘイレンでした。そのあとはJ-RAP。情報源がテレビや雑誌、試聴機だったので、その後は雑多にあれこれと。

— ヒップホップ、R&Bはどのへんから?

田中:西麻布ZOAのブラック・マンデー(YOU THE ROCK★が90年代に主催していたイベント)、あと代チョコ(代々木チョコレートシティ。ライブハウス)とか。USのモノも聴いてましたけど、日本の方が好きでしたね。
R&BはDJ KIYO。『Cisco R&B Fair 98』とかマジ聴きました。

— そして、田中くんといえば、宇多田ヒカル好きがよく知られていますけど、デビューの頃からずっと好きで聴いてたんですか?

田中:宇多田は超最近なんですよ。最初は全く興味なかったんですけど、移動中に人のiPodに入ってた『Heart Station』を聴いて、お熱になっちゃいました。

— そうなんですね。あと、パンクネタのツイートもたまにしてますよね。

Offspring『Smash』
ブレット・ガーヴィッツ(バッド・レリジョン)によるインディーレーベル、エピタフ・レコードが一躍大きな存在となるきっかけとなった、1994年リリースのビッグヒット作。

田中:WARPに載ってたので、最初はエピタフとか。当時、イベントブームでしたから、AIR JAMなんかも全然好きでしたし、レジストレイターズみたいなバンドも好きでした。ただ、金に限度があったので……。

— 万引き?

田中:万引きは小学校の時に才能がないと気づきました。

— ははは。じゃあ、ここ最近のヒップホップはいかがです?

田中:ヒップホップの人たちはハングリーだしバカだから好きなんですよ。ここ最近は、オンラインミックステープをどんどん発表してる感じがいいですよね。今、日本とUSは僕は基本的にどっちも同じ感じで見てるんですけど、おもしろいのは日本の方が多い気がします。

— 特に注目してる人はいます?

SOAKUBEATS『NEVER PAY 4 MUSIC』
彗星のごとく登場した新世代ビートメイカーが2012年末にリリースした1stアルバム。ECD、OMSB、Cherry Brownらのラッパーが参加している他、ミックスをイリシットツボイ、アートワークを石黒景太が手がけるなど、T.R.E.A.M.なメンツががっちりサポートした強力盤。

田中:soakubeatsですかね。

— はじめてトラックを作ったのが去年で、もうアルバムまで出るってすごいですよね。

田中:まぁ粗悪さんがヤバいから。しかも、ヤバいだけじゃなくて、頑張ったってところも重要なんだと思います。

— かたや、田中くんって、人前でDJやったことはあります?

田中:人の結婚式とかでは。

— 結婚式でA-THUGみたいな?

田中:みんなの喜ぶ顔がみたいので、主にトップ40ヒッツでしたね。

— ミックスは?

田中:ターンテーブルは1台しか持ってなかったので、ミックスを作るようになったのは最近なんですよ。

— えー!あんなDJうまいのに!じゃあ、トラック制作は?

田中:これも最近なんですよ。やってみたら出来たって感じです。「Local Distance」を作る以前は、遊びで人の機材を触らせてもらう程度。基本的には何もしてなかったですね。ファッションスナップにも縁がなかったですし。

— ははは。ラッパーからトラック提供のオファーはあったりします?

田中:あります。あるし、やってないのがあります!マズいです。サクっと出来ればいんですけど、頑張らないと出来ない。本当はラップしたいんですけど、一回フリースタイルをiPhoneで録ってみたら、マズかったです。心からダサいんですよね。辛くなります。

— 田中くんにとっての音楽は趣味?それとも仕事にしたい?

田中:絶対仕事にはしたくないですね。そもそも才能がないですから。それに稼げない前提でやってる人の方がおもしろいって感じですし。

— では、その存在が広く知られることになったネットカルチャーは田中くんにとって?

田中:ネットもはじめたのが遅くて、エロサイトを見るとバナーがデスクトップから消せなくなっちゃう時代くらいですかね。周りに近い趣味の人がいなくて、情報が勝手に入ってこない僕みたいな人間にとっては、非常に助かるツールですね。だって、それ以前、情報が得られるのはレコード屋くらいでしたからね。

— 周りに同じようなことに興味を持ってる人がいなかったんですね

田中:今もいないです!

— それが今やツイッターや田中面舞踏会みたいなイベントを通じて、キャラ的な部分がどんどんひとり歩きしてるじゃないですか。今の状況はいかがですか?

田中:悪ノリ好きなんで!ただ、まぁ、元々はこんなことになるはずじゃなかったんですよ。悪い大人に見つかっちゃった感じですね。

— 田中面舞踏会には行ったんですか?

田中:行けない回もありましたけど、入口で並んだり、ガヤ飛ばしたりしてましたよ。

— 並んだんだ(笑)。割引は適用?

田中:仮面だけですね。目立たないように。

— 初回は無人のブースで田中くんが作ったミックスがプレイされましたよね。

田中:石田さん(ECD)の近くで見てたんですけど、不安でしたね。「ブースが無人になってるけど、大丈夫か!」って。

— でも、ブースは無人でしたけど、結果的に超盛り上がってましたもんね。

田中:あれはすごかったですね。


田中が第一回田中面舞踏会用に作ったミックス音源。

— でも、ネットでこれだけ趣味の近い人と仲良くなって、実際会ってみたくならないんですか?

田中:それはもちろんなりますよ!でも、最近は逆に、ネットでの僕を知らない誰かとヴァーチャルじゃなく、リアルで仲良くなれたらいいなって思ってますね。

— しかし、こちらが想像していた以上に田中くん、腰低いし、応対も柔らかいですねー。じゃ、逆に最近、ムカついたことは?

IDEAL『IDEAL』
昨年の『3 WORDS MY WORLD』以降、精力的に音源リリースを続けるERAが、CIAZOOのhi-defとともにユニットを結成。突如本年末に届けられたこのアルバムは、ある意味で2012年における東京のヒップホップを象徴する一枚。盟友O.I.の存在感にも要注目。必聴。

田中:地震ですかね。あれはかなり気持ちを惑わされましたね。でも、普段、ムカつくことはほとんどないんですよね。

— 攻撃的な音楽聴いてるのに。

田中:まったくイケイケじゃないですからね。すべてにヒケヒケですよ。

— ははは。田中くん、やっぱりラップもやった方がいいと思いますよ。

田中:どういう結論ですか(笑)。

— じゃあ最後に作っていただいたミックスについて一言お願いします。

田中:年末年始な感じ、イケイケじゃなくて安らげてちょっと盛り上がるっていう、そんな感じで聴いてもらえたらうれしいです。ミックスの頭の方に僕が以前DJ KEN-BOさんに捧げたトラックを、とあるラッパーが使いたいって言ってくれてラップしてくれてるのが入ってるんですけど、それめっちゃいいかんじなので聞いてみてほしいです!

— 次回は一週間スナップでの登場よろしくお願いしますね。

田中:(笑)こちらこそ、ぜひ!