世界の音楽シーンを席巻しながらも、国内メディアでは黙殺されてきた”世界で最も知られる日本のバンド”Boris。その知られざる実態に迫る!

by Yu Onoda

インターネットが発達したとはいえ、世の中には知らないタイプの音楽が知らないところで熱狂的な盛り上がりをみせているシーンが地球上にはまだまだある。2008年にシングル「Statement」がビルボード・チャート初登場23位を記録するという日本の音楽史における快挙をやってのけた日本人3人組、Borisはまさにそんなグループだ。

ヘヴィ・メタル/ハード・ロックの典型的スタイルとノイズ/アンビエント的なスタイルを右に左に行き来してきた彼らは、海外でコンスタントに10万枚に迫るセールスを記録。ルー・リードやレディオヘッド、フレイミング・リップス、ポーティスヘッド、ナイン・インチ・ネイルズといった世界のトップ・アーティストに愛され、映画監督のジム・ジャームッシュは最新映画『リミッツ・オブ・コントロール』の音楽担当に彼らを起用。さらに昨年公開され、日本アカデミー賞最優秀作品賞に選ばれた映画『告白』の挿入曲も彼らは担当している。

こうした事実を知らないとしたら、それは歪んだ日本の音楽メディアに毒されているということなのかもしれない。しかし、快挙につぐ快挙を積み重ねてきたことで、長らく黙殺されてきたBorisを、メディアはそろそろ無視できなくなってきた。そして、2011年、アルバム『New Album』を携えた彼らが逆輸入というかたちでついに日本でのメジャー・リリースを果たす。すでにそれ以前からワールド・ワイドなメジャー・シーンの主要プレイヤーとして目されているBorisをあなたならどう聴くだろう。その知られざる彼らの実体をグループのドラマーであるAtsuo氏にうかがった。

インタビュー・文:小野田 雄

まず、東北地方太平洋沖地震の犠牲者の方々には謹んでお悔やみを申し上げます。また、被災者の方々には、心よりお見舞いを申し上げます。

Boris 一同
(このインタビューは2011年2月に収録されたものです)

今の日本はエッジーな、すごく偏った方向に尖りまくってる感じ。もう、取り返しがつかないし、後戻りが出来ないところまで来ている。

— 1992年結成のBorisは1996年くらいから海外でライヴ・ツアーを行うようになって、2003年から毎年コンスタントに、多いときには年間100本の海外ツアーをするようになったんですよね。そうやって活動していくなかで海外での活動に手応えを感じられるようになったのはいつ頃なんですか?

Boris(ボリス) 1992年結成。メンバーはTakeshi(Vo,B)、 Wata(G)、Atsuo(Vo,Dr)の3人。 アンビエントやノイズなど、様々な音楽要素を内包したヘヴィなロック・サウンドは海外のトップ・アーティストやメディア、リスナーに高く評価されている。 http://www.borisheavyrocks.com/

Boris(ボリス)
1992年結成。メンバーはTakeshi(Vo,B)、
Wata(G)、Atsuo(Vo,Dr)の3人。
アンビエントやノイズなど、様々な音楽要素を内包したヘヴィなロック・サウンドは海外のトップ・アーティストやメディア、リスナーに高く評価されている。
http://www.borisheavyrocks.com/

SPINやPitchforkといった世界の音楽メディアで2006年ベスト・アルバムに選ばれるなど、Borisのブレイクを決定付けた2005年のアルバム『PINK』。

SPINやPitchforkといった世界の音楽メディアで2006年ベスト・アルバムに選ばれるなど、Borisのブレイクを決定付けた2005年のアルバム『PINK』。

Atsuo:最初のアメリカやイギリスのツアーは採算度外視、友達つてで回ったんですけど、ヨーロッパ・ツアーの時、動員数うんぬんってことではなく、日本のロックを取り巻く状況との違いがよく分かった。向こうのオーガナイザーやヴェニュー(ライヴ・ハウス)はギャラをしっかり用意してくれるだけでなく、日本で言う賄いみたいな、その日のディナーを用意してくれたり、ツアーに出ている限り、生活費がかからないんですよね。だから、ヨーロッパを回った時に「これならバンドで生活出来るかもしれないな」っていう実感を初めて得られたんですよ。

— ライヴ・ハウスの運営システムが日本とは異なっているわけですね。

Atsuo:日本のライヴ・ハウスはバンドにチケットを買わせて、バンドマンはそのノルマをクリアするべく周りの人たちにチケットを売る。でも、結局は売れないぶんを自分たちで払ったりして、バンドが消耗していくっていう。そういう日本の土壌とは異なるヨーロッパでは音楽がやりやすかった。“ロック・バンド”というもの自体、もともと海外で生まれたものだし、それを楽しみ、サポートする土壌があるからこそロック・カルチャーが育まれてきた。
それに対して、ロックの表面的な音やスタイルだけが輸入され続けてきた日本にはその土壌がない。だから、海外とは全くの別モノ。僕らが活動するにあたっては、海外で活動した方が自然にハマるというか、やりやすかったというか…。その状況は未だに変わらないと思います。同時に僕らは海外レーベルから作品をリリースもしていたし……。
一度、ヨーロッパ・ツアーをやったら、向こうのオーガナイザーの間でも「Borisは海外に出てこられるバンドなんだ」っていう認識が広がって、頻繁にライヴ・オファーをもらうようになっていきました。思い返すと2005年にアルバム『PINK』をリリースした後、海外でのライヴ動員は一気に増えたように思います。

— Borisが海外で知られるようになったのは、まず音楽の素晴らしさがあると思います。海外のアンダーグラウンド・シーンでは、日本のサイケデリック・ロックやノイズ/インプロヴィゼーションがカルト的に支持されている土壌がありますけど、Borisもその恩恵を受けたところはありますか?

Atsuo:サイケデリック・ミュージックって、客観的にみると、すごく手堅い市場なんですよ。結局、音楽を追究していったマニアたちが辿り着く音楽の一つとして筋道があるじゃないですか? そのシーンには音楽にお金を払う人たちがちゃんといるし、シーン自体も横のつながりがあって、お互いに支え合っているから、そのネットワークでツアーが組めますしね。
と同時に、僕らの音楽を語るうえでよく引き合いに出されるヘヴィ・メタルやヘヴィ・ミュージックの成熟度も日本と海外では決定的に違うんです。海外のヘヴィ・メタルシーンでは現代音楽からサイケデリック・ミュージックをはじめ、既に様々な音楽が内包されているし…。
そういう意味ではサイケデリック・シーンだけでなく、メタル、ハードコア、パンク、色んなシーンからサポートしてもらっていると思います。

— その強力なサポーターの一つにアメリカのバンド、SUNN O)))(サン)がいます。ブラック・メタルやドゥーム・メタル、ドローンやアンビエント、ノイズを内包した彼らは世界中で大きな注目を集めるスーパー・カルトな存在ですよね。

Borisと親交の深いSUNN O)))の最新作 『Monoliths & Dimensions』。 2009年リリース。

Borisと親交の深いSUNN O)))の最新作
『Monoliths & Dimensions』。
2009年リリース。

Boris、SUNN O)))の両バンドが敬愛するアースも、今年ニューアルバム『Angels of Darkness Demons Of Light I』をリリース。

Boris、SUNN O)))の両バンドが敬愛するアースも、今年ニューアルバム『Angels of Darkness Demons Of Light I』をリリース。

Atsuo:SUNN O)))のスティーヴンとグレッグと出会ったのは最初のアメリカ・ツアーだったんですよ。シアトルでのライヴを観に来ていて、その時以来、手紙のやり取りをするようになった古い友達なんですけど、彼らとの好きな音楽の共通項として、アースというバンドがいて……轟音だけどアンビエントっていう、いわゆるパワー・アンビエントをやってたバンドは他にいなかった。
アースについては、Borisの表現において影響を受けた事も確かです。SUNN O)))はアースへのトリビュートバントとしてスタートしましたし、グレッグのレーベル、(Borisの海外盤もリリースする)サザン・ロードはアースの再評価の役割を担う時期があって、Borisもその流れに含まれていった感はありました。
そして、その後、活動停止状態にあったアースが再始動すると同時に、ジャンルの細分化の反動で、非常にシンプルな音楽の形態であるドローンやパワー・アンビエントが再評価された時期があって、そういうシーンのそばに、端から見れば普通のロック・バンドのようなBorisがいたっていう……。
しかも、そういう音楽をやってるアジア人の僕らが向こうの人からは面白く見えたんじゃないかな。そういう流れの中でお互い世界に認知されていったという側面があったと思います。

— SUNN O)))にしても、やってる音楽とは裏腹に、黒装束に身を包んだ本人たちのヴィジュアル、爆音のライヴ空間を満たす、目の前が見えなくなるくらいのスモークと激しいフラッシュの照明は見方によってはポップに捉えられなくもないですよね。同じようにBorisもサウンドはヘヴィであると同時に、作品のパッケージが可愛らしかったり、ヴィジュアルに惹きがあります。

Atsuo:要するに“世界観”ってことですよね。SUNN O)))はメタル・シーンでの評価が高かったんですけど、それが同時にアートとしても機能したというか。“ヘヴィ・メタル”は僕の中で、アニメをはじめとする日本のオタク文化とすごく近い感覚があるというか……。
ヘヴィ・メタルのバンドひとつひとつにはアニメに通ずるような“世界観”、わかりやすく言えば“設定“があって、そのなかでの物語を描いてるような。だから、音楽主導ではなく、世界観主導で発達してきた音楽でもあると思っています。だから、そういう意味では時として分かりやすくなったりもするし、リスナーの色んな妄想を吸収しうる器になり得るっていう。

— そして、ヘヴィ・メタルというと、日本においては、表層的にはマッチョなイメージがあると思うんですけど、Borisはそういうバンドではありませんよね。

Atsuo:そうですね。あるいはテクニック至上主義的というヘヴィ・メタル特有のイメージ、まぁ、日本においてはプラスして、コミカルなイメージもあったりすると思います。そのヘヴィ・メタルを取り巻く状況も日本と欧米では決定的な差異があります。
先ほども話しましたが、海外のメタル・シーンはドローンやアンビエント、現代音楽も飲み込んでいますし、すごく先進的な音楽ジャンルになっています。そういう意味ではわかりやすさと、音楽的深さが同居している。その二側面があったからから僕らも受け入れてもらえたんだと思ってます。
自分達からは“ヘヴィ・メタルバンド”って名乗った事は一度も無いんですけどね。いつの間にかそういう肩書きが逆輸入されて日本でも“ヘヴィ・メタルバンド”って言われるようになってきた……(笑)。

— その後、2007、2008年あたりから、ざっと挙げていくと、ポーティスヘッドが出演アーティストのセレクションを担当したオール・トゥモローズ・パーティ(以下ATP)に出演したことをはじめ、フレイミング・リップスのATP、ペイヴメントのATP、そして、ローリー・アンダーソンとルー・リードがキュレーションを担当したオーストラリアの“VIVID LIVE”と、世界がうらやむ海外のビッグ・アーティストとのライヴ共演を果たしていきます。

Atsuo:そういったバンドから直々に呼んで頂いて、非常に光栄に思いますけど、過去の共演バンドをこうやって挙げてみると、我ながらわけが分からないというか、変な感じがしますよね。もちろん、オファーを頂く前から知っていたバンドもいたし、失礼ながら全く聴いたことがないバンドもいたし……。
よく覚えているのは、ペイヴメントのATPに出演させて頂いた時、「うわ、俺達、ヘタウマのローファイ・メタルなんだ!そういう側面から評価されている部分は絶対にあるな」って思ったこと(笑)。

— はははは。ローファイ・メタルですか。

Atsuo:その時はそう感じたんですよ。「すごくアウェイなライヴになるんだろうな」って思って出演してみたら、他のバンドと意外にも馴染んでた(笑)。
あと振り返ってみると、日本人バンドであるってことは非常に影響していると思うんですよ。自分たちは普通に日本語で歌っているんですけど、向こうの人にとっては奇妙な響きに聞こえているんだろうし、自分たちが意図しないところでのストレンジ感を誤解も含めて、楽しんでもらってるんじゃないかなって。

— 例えば、かつて少年ナイフが海外で人気を集めたのも、向こうの人にとってはつたない、子供みたいな英語でラモーンズのようなパンク・ロックを歌っているのが不思議で面白かったんでしょうし。

日本を代表するガールズ・バンド、 少年ナイフが昨年リリースした最新作 『フリータイム』。

日本を代表するガールズ・バンド、
少年ナイフが昨年リリースした最新作
『フリータイム』。

ナイン・インチ・ネイルズの代表作 『With Teeth』。2005年作。

ナイン・インチ・ネイルズの代表作
『With Teeth』。2005年作。

Atsuo:僕が思うに、少年ナイフって、欧米にとっての初音ミクだと思うんですね。向こうの人って、ストレンジなものも抱擁するおおらかな受け皿が早くからあったし、少年ナイフ、ボアダムス、コーネリアス、バッファロー・ドーターときて、その次の日本人アーティストを求めている部分もやっぱりあったと思う。そこでBorisが「ロックっぽくて、変な日本人がいる」っていう感じで受け入れられている部分はあると思います。だから、単純に音楽だけが評価されて、ここまで来てるとは思わないですね。

— さらに2008年にはナイン・インチ・ネイルズに誘われて一緒に北米のアリーナを回るツアーを行ったんですよね。

Atsuo:過去に出たフェスで一番規模が大きかったのが5千人だから、室内のライヴで1万人規模の会場でやるのはその時が初めてでしたね。演奏するという意味では、やることは一緒なんですけどね。ただ、待遇はよくて、ツアーに同行するシェフやマッサージ師がいましたからね。だいたいツアーに出ると痩せて帰ってくるんですけど、ギターのWataはそのツアーを終えて、太って帰ってきたらしい(笑)。それだけでなく、ショウビジネスのトップエンドにおける演出方法や音楽をプレイするシステムをすぐそばで見せてもらって、すごく刺激になりましたね。

— ナイン・インチ・ネイルズのライヴはロック・エンターテインメントの完成形の一つというレベルですもんね。

Atsuo:彼らが何をやろうとしていて、そのために何を犠牲にして、何に力を注いでいるのか……。そういったものをステージの裏側から見る機会って、そうそうないですからね。

— それにトレント・レズナーのようなロックの神話的な人物って、日本人の感覚からすると別世界の住人というか、リアリティがないし、まして触ることも出来ないですからね。

Atsuo:トレント・レズナーもルー・リードにも触ってきましたよ。いや、握手したってことですけど(笑)。客観的に日本人の感覚からすると相当な距離感のある世界と思われてますよね。メディアが捏造してきた部分もあると思いますが、実感が全く持てないような距離感が生じてしまってる。
でも、僕にはそういう感覚がないんです。色んな活動をしていけば、出会う人には出会うし、実際、触れ合えるところまで辿り着くことが出来たという実感もあるし、まぁ、世界は繋がっていますよね。
ただ、逆に向こう側のリスナーやサポートしてくれている人たちからしてみれば、Borisに対する隔たり、距離感も含めて楽しんでくれているのもわかっています。ここ何年かの活動を通じて、外側から見た時に日本は別の惑星のような感じがするというか……。文化のズレ具合というか……。海外の人にとっては、宇宙人を楽しむような感覚を持っているんじゃないかと思うんですけどね。

— そういった海外からの見られ方はBorisの作る音楽に影響を与えていると思いますか?

Atsuo:逆に作用する部分の方が強いですね。例えば、漢字を使ったり、和な部分を出したり、日本人を売りにするのがホントにイヤなんですよ。だから、それを抑えようとする傾向にはありますね。

— ただ、Borisは日本語で歌い続けていますよね。

Atsuo:そうですね。僕らはずっと日本語でやっているわけですけど、全部の歌詞がカタカナ英語的な感じにまで昇華出来たらいいなって……ここ最近は強く意識してます。
というのも、カタカナ英語って、日本では英語と捉えられているんだけど、海外では意味をなさない言葉というか、すごく独特なものだと思うんですよ。

— それに日本語の歌メロって、海外の人にストレンジな印象を与えるのに対して、カタカナ英語だったら意味はストレンジだけど、歌メロはよりスムーズになりますもんね。

Atsuo:圧倒的に違いますよね。日本語という言葉、英語という言葉がロックのメロディに乗る時、意味を成す量だとか一つの発音がどれだけ意味を含むか、とか…。メロディの雰囲気を壊さないで、言葉を乗せていくという機能性において相当な差異がある。そのことは散々痛感させられてきてます。

— なるほど。

全世界で2,000万枚以上のセールスを記録するバンド、ザ・カルトのシンガーにして、再結成したドアーズのヴォーカルを務めるイアン・アストベリーとの共演作品『BXI』。2010年8月リリース。

全世界で2,000万枚以上のセールスを記録するバンド、ザ・カルトのシンガーにして、再結成したドアーズのヴォーカルを務めるイアン・アストベリーとの共演作品『BXI』。2010年8月リリース。

Atsuo:昨年、ザ・カルトのイアン・アストベリーとコラボレーションしたBXIというプロジェクトを通じて決定的に実感したことがあって。そのヴォーカル・パートを日本でレコーディングしました。彼は誰も連れず、単独で日本に来たので空港までピックアップしに行ったんですね。
で、こちらとしても彼がどういう進行でヴォーカル録りをしていくのかが分からなかったので、とりあえず、1日1曲くらいの感じでスケジュールを押さえていた……。すごく漠然としたものだったんです。
だから、「レコーディングはどうなるんだろう? 終わるんだろうか?」ってすごく不安だったんですけど、ホテルに着いた時、イアンが録音する曲のポートフォリオ、写真とか言葉なんかをファイリングした資料を見せてくれて、その時点で「うわ、歌詞出来てないんだ」って、ものすごくびっくりしたんですよ(笑)。
それで、実際スタジオに入って、ヴォーカルを2、3テイク録った段階で、彼は歌ったものを聴きながら、「あ、こうやって歌ってる。こうやって聞こえる」って、自分が歌った言葉をノートに取り始めたんですね。つまり、歌った自分とのやりとりを始めたんです。英語って、同じ発音でもつづりを変えて別の言葉にすることが出来るじゃないですか? 彼はそうやって、だんだん歌詞を絞っていったんです。
その作業を通じて“ロックの秘密”を見た気がしました。それは英語と日本語との決定的な違いであり、「こういう風に英語のロックの歴史は成り立ってきたんだな」って思わされました。

— 英語のリズム感やフレキシブルな言語形態というか。

Atsuo:そう。言葉を組み替えて文章を作り替えていくことに関しては、日本語でもある程度は出来るんですけど、英語よりどうしても制約が強い。
もちろん僕らの方法論としても、適当に歌った言葉を空耳で歌詞を練り込んで行く方法はあります。でもそれを日本語で行うと、文章としてかなり奇天烈なものになってしまう。だから、日本語の文法や表現にのっとって許容できる範囲にある程度整えていく。でもその作業は融通の利く英語とは自由度が全く違いますよね。
もちろん、日本語は日本語で、漢字を別の漢字にしてみるっていう違った融通の利き方はあるんですけど、それに加えて、英語なんだけど英語に聞こえない、日本語だけど日本語に聞こえないカタカナ英語の感覚を意識しつつ、Borisの歌詞を作っていってる感じですね。

— それから日本ということでいえば、Borisの日本国内での扱われ方は特殊なものがありますよね。2008年にアルバム『Smile』の先行シングル「Statement」がビルボード・シングルチャートで初登場23位にランクインするという、日本のロック史におけるBorisの偉業が日本のメディアで報じられることはほとんどありませんでしたよね。一連のその現象は同時に日本の歪んだ情報統制や情報操作、鎖国性なんかをあぶり出しているようで、逆に非常に恐ろしいものを感じました。

先行シングル「Statement」がビルボード・チャート初登場23位を記録した2008年の名作アルバム『Smile』。 日本盤と海外盤の2種類があり、日本盤は特殊パッケージとなっている。

先行シングル「Statement」がビルボード・チャート初登場23位を記録した2008年の名作アルバム『Smile』。
日本盤と海外盤の2種類があり、日本盤は特殊パッケージとなっている。

2010年6月リリース。ヘヴィロック・サイドに焦点を絞ったベスト・アルバムと2時間に及ぶ東京でのライヴを収録した2枚組のDVD『Variations+Live in Japan』。 Borisビギナーはこちらの作品も要チェック。

2010年6月リリース。ヘヴィロック・サイドに焦点を絞ったベスト・アルバムと2時間に及ぶ東京でのライヴを収録した2枚組のDVD『Variations+Live in Japan』。
Borisビギナーはこちらの作品も要チェック。

Atsuo:でも、日本の音楽業界において、それは当たり前のことですよ。日本の音楽の歴史って、日本の音楽業界の歴史だと僕は思っているんですね。各社が日本の音楽業界っていうものに参加していて、会社同士ではお互いにメリットがあることしかやらないですよ。
そういう意味で、僕らは日本の音楽業界に参加してないし、「Borisの功績を伝えたところで私たちに何の得がある?」っていう話なんだと思うんですよ。だから、伝わっていかないですよね。

— 要するに日本のメディアは、メディアではないってことですよね。

Atsuo:はい。日本のほとんどのメディアに自主性や批評性はないですよね。ただここ数年、紙媒体がどんどん追い込まれてきて、状況は変わってきてるとは思う。実際、今日のインタビューもファッション・サイトの隙間で好き勝手に批評活動をしてみようって動きだと思いますし、長年問題視されている出稿(広告料を払うことで記事が掲載される)というシステムは壊れつつあるわけですから。

— 現在のBorisは海外でコンスタントに10万枚に迫るアルバム・セールスを記録しているわけですが、日本と海外のリアクションや置かれているポジションの大きな落差はご自分のなかでどう処理されているんですか?

Atsuo:最近はかなり割り切ってますね。さっきも言ったことを考えれば当然ですし。本当は国内に向けて海外での話をするのは逆プロモーションだとも考えています。日本人のコンプレックスを煽るだけになりますし。
まあ、隠す事でもないので聞かれたら答えてます。僕たちの音楽が海外で浸透したからといって日本でも浸透するかといったら、それは違うと思いますし……。日本人が日本人に向かって「お前、死ね!」って言うより、外国人が片言の日本語で「オマエシネ」って言った方が面白いじゃないですか(笑)。そういう構造で海外では楽しんでもらえてるんだと思います。

— ただ、海外に出たことで気付いた日本の奇妙さを、Borisはポジティヴに転換している側面もありますよね。

Atsuo:そうですね。一つのバンドが趣旨の異なるフェスに出演することとか、音楽的な部分ではなく、文化的な側面で捉えた時にBorisは特殊な立ち位置にいるんだな、とも思います。日本の中にいるわけでも、海外にいるわけでもなく、色んなところに出入りが出来るというか、そういう境界を超えながら、どこにも属せない。色んなものを俯瞰したり、色んなものを内側から見ることが出来るっていうことは自分たちの強みだと思っていて、そういう意識が自分たちの方法論であったり、趣向や音楽にも強く表れているとは思います。

— では、Atsuoさんは日本のどういった部分を面白がっているんですか?

Atsuo:僕は日本の音楽業界の歴史を否定しているわけではなく、そういう歴史があるからこそ生まれた音の在り方や方法論……まぁ、avexがやってきたような、アーティスト主導ではなく、企画が先行でアーティストを作っていく方法論も、逆にいえば、アーティストのエゴが介在しないわけだから、音楽が自由に生まれていく方法の一つだと思うんです。そういう意味で、“アリなもの”に至る方法論は色々あってしかるべきだし、色んな“痛い”部分も含めて……。まぁ、痛いっていえば自分達が一番“痛い”と思ってますけど(笑)。
やっぱり、海外の人にとっては、ひらがな、カタカナ、漢字という3つの言葉がある時点で日本のカルチャーはハードルが高いというか、日本語という言葉のバリアに守られて、ほぼ文化的には鎖国状態にありながら外からは情報が入ってくるという特殊な状況がある。言い方は悪いですけど、厚顔無恥なまま、その内側で空騒ぎをしながら生まれてくる音楽もまた特殊だし、それは単純に面白いと思う部分があります。

— つまり、グローバリズムとローカリズムの問題というか、鎖国状態の風通しの悪さはネガティヴなものであるけど、鎖国状態のなかで生まれてくる異物にはオリジナリティがあるということですよね。

英国のミュージシャン、ジュリアン・コープが日本の60、70年代のロックを研究、紹介した奇書。事実誤認も多数指摘されているが、海外から日本のシーンがどう見られているかの好サンプルでもある。

英国のミュージシャン、ジュリアン・コープが日本の60、70年代のロックを研究、紹介した奇書。事実誤認も多数指摘されているが、海外から日本のシーンがどう見られているかの好サンプルでもある。

Atsuo:今度、日本の音楽について本を出したいっていう外国人の方の取材を受けるんですけど、「がんばってるなー」って思いますよね。その人も「すごく特殊な音楽の歴史が日本にはあって、それはそれでクオリティが高くて、成熟もしている」って言ってたんですけど、そうはいっても海外へ伝わっていかないですもんね。
そういう意味でジュリアン・コープが出した『ジャップ・ロック・サンプラー』って本は、海外の人は大喜びだった。でも日本人からすれば、「えー?これ、超ごく一部じゃん」って感じじゃないですか(笑)。

— しかも、あの本は情報が偏ってるし、間違いだらけっていう(笑)。

Atsuo:だから、そのライターさんがどこまでのことをやるのかは分からないですけど、一人のライターがフォロー出来る量じゃないというか、日本は日本で世界のロック・シーンと並行して、同じ質量がそこにはあるような気がするし、まだ、その入口の部分がちょっと伝わってるくらいの段階じゃないですか? 今では、初音ミク、ボカロもあるし、ヴィジュアル系もいるし、アニソンのシーンもあるし、そこまで辿り着くまで、あと何年かかるの?って……。
そういう海外のシーンと日本のシーンを俯瞰したうえで、活動していけるのは自分たちの強みだし、幸せなことだと感じていますね。

— これまでのBorisは日本でほとんど知られていない、様々な音楽要素を内包したヘヴィ・ロックの多面性を最前線で追求してきたわけですが、今回リリースする新作『New Album』は、初音ミクやヴィジュアル系、コミケで売られている同人音楽やアニソンっていう日本のアンダーグラウンド・シーンの最前線と共振しているという点で、今まで以上に振り切れたものを感じました。

Atsuo:今回の作品は色んな側面から見てもらえるような作品にはなっていると思うんです。日本の状況とかBorisの世界との関わり方とか、リスナーがそういう全体を見渡すのは難しい、「とにかく伝わらないだろうな」って思っていました。

— 実際のところ、Atsuoさんは、初音ミクやヴィジュアル系、コミケで売られている同人音楽やアニソンを聴かれてきたということなんですか?

Atsuo:そうですね。去年の暮れにはサウンド・ホライズンのライヴに行って、衝撃を受けて帰ってきたばかりですし、ミクFESの映像(ステージ上の半透過スクリーンに投射された初音ミクが音と同期して踊って歌う)はとにかく驚愕でした。オーディエンスはみんな盛り上がっているけど、ステージの中心には誰もいないですからね。音を表現として扱っている者としては突きつけられます。
今回自分達のアルバムって、すごくポップに、軽く聞こえるかもしれないですけど、ボカロ、初音ミクを取り巻く日本の状況を考えると“人”ではリスナーの妄想を担えないくらいのところにまで来てる。それって、すごくヘヴィな現状だと思うんですよ。そういう意味も含めた時、僕らの今回のアルバムはBorisのなかで一番ヘヴィな内容だと自分では思っているんですけどね。
僕は初音ミクを否定しているわけではないし、むしろ、僕は好んで聴いている方なんですけど、やっぱり、それはヘヴィな事実ですよ。“人”じゃないものが人々の妄想の拠り所になっている。“人”というリミッターが外れた状態で。“人”では抱擁しきれないところまで進行してるこの感じ……。まさか、こんな未来が来るとは思わなかったですね。

— そういう状況にBorisはどう切り込んでいくのか。

Atsuo:人として? いや、早くCGになりたいですけどね(笑)。

— はははは。

Atsuo:実際の実在するロボットがいる未来ではなく、ここに来た未来っていうのは“キャラクター”だった。そういった部分で、日本はとにかくエッジーですよね。

— 日本人は、モノにも魂を感じるというか、森羅万象に八百万の神々を感じる心を持っていると言われますよね。そういう精神構造が現在の状況に拍車をかけているところがあるようにも思いますが。

Atsuo:石の中に神様を感じたり、とかね……。そういう民族性の果てに今の日本文化はエッジーな、すごく偏った方向に尖りまくってる。もう取り返しがつかないし、後戻りが出来ないところまで来ている。
そういう意味でも音楽自体が主役でいられた時代はとっくに終わっている。現代ではロックなんていう音楽は“キャラクター”がそのお話のなかで、たまに奏でる程度のもの……。その現状を認識しつつ、自分達は音楽をやっているつもりです。

— ノン・ドラッグでホログラフのキャラクターにソウルを感じるっていう、かつてないサイケデリックな日本の状況下で、Borisが今回リリースするアルバムは、それを加速させるベクトルとその逆ベクトルにある覚醒感が1枚につまっているように思いました。

Atsuo:その捉えられ方は非常にありがたいなと思います。

— ただ非常に振り切れた、チャレンジングな決断がそこにはあったと思います。今回の作品を作るに至った経緯を教えてください。

Atsuo:2008年にアルバム『Smile』のツアーで色んな国を回って、その合間を縫ってはレコーディングを続けて、2009年5月くらいに今回のアルバムとは全く内容の異なる『New Album』というアルバムが完成していました。その作品は「お蔵入りするためのアルバムを作ろう」というコンセプトでスタートしました。レコーディングにあたって、Borisという制約を取っ払って、色々やってみたんです。

— お蔵入りするためのアルバムですか。

5月24日にアメリカのレーベル、サージャント・ハウスからリリースされる2枚のアルバム『Heavy Rocks』と『Attention Please』。日本でリリースされる『New Album』の親にあたる作品。 こちらは『Heavy Rocks』。

5月24日にアメリカのレーベル、サージャント・ハウスからリリースされる2枚のアルバム『Heavy Rocks』と『Attention Please』。日本でリリースされる『New Album』の親にあたる作品。
こちらは『Heavy Rocks』。

そして『Attention Please』。

そして『Attention Please』。

Atsuo:そうです。ただ、2008年から2010年にかけて、音楽を取り巻く状況は一気に変わって、音楽はデータとして扱いが軽くなってしまったじゃないですか。自分たちの作品も違法シェアされまくったり、音源がリリース前に流出してしまったり、そんな中、自分たちが押しつぶされてしまうような、そんな感覚を痛感させられて。だから、2009年に作り上げた『New Album』は届ける方法も見い出せず、リリースする意義も持てず……。結局、その作品は本当にお蔵入りすることになりました。
その後、シングルやスプリット・シングルとして部分的に発表することになるんですけど、そのアルバムを解体して次の作品に進もうってなった時、二つの方向性が見えてきた。一つはベタにヘヴィなもの。もう一つはギターのWataが全編ヴォーカルをとる、ポップな方向性。その結果として『Heavy Rocks』と『Attention Please』という2枚のアルバムが完成したんです。

— その2枚はLAのレーベル、サージェント・ハウスからリリースされるんですよね。

Atsuo:そうですね。その2枚を海外でリリースする流れになってきたので、それぞれのアルバムから数曲をピック・アップし、そこに新曲を足して、日本でもう1枚の別のアルバムをリリースしようというアイデアが生まれてきました。つまり、元々一枚だったアルバムが、シングルや2枚のアルバムに分かれ、再度1つに統合されていく。
『Heavy Rocks』と『Attention Please』のマスタリングは去年の7月に終えていて、自分たちのなかではちょっと前の作品になってしまっていたので、ただ曲を集めただけじゃなく、更にアップデートしたかった。そこで成田さんに協力していただいて、今回のavexからリリースされる『New Album』が完成したというわけなんです。

— つまり、いくつかの段階を経て、『New Album』に到達した、と。

Atsuo:はい。だから、僕らのなかでは3枚のアルバムを経た次の作品ということになるので、自然な流れではあるんですけど、その変遷を知らないというか、知りようがないリスナーにとっては唐突な印象を受けるだろうなって思ってます。
『Heavy Rocks』と『Attention Please』はメンバーだけで、修行のようにひたすらレコーディング。エンジニアの中村(宗一郎:ゆらゆら帝国を手がける)さんにミックスを手伝っていただいて、曲を形にしていった。2枚を完成させた時点でもう相当な疲労困憊状態、自分達で出来る事はやりきったという感じがありました。その後に日本でのリリースプランが進行して行って……。
平行して日本のヴィジュアルとか同人音楽、アニソンであるとか、そういった音楽も僕は沢山聴いていて、ふっと成田忍さんのことが頭をよぎったんです。成田さんの作品は、現在も活動中の4-D mode1、80年代に細野(晴臣)さんのレーベル、ノンスタンダードからデビューしたアーバン・ダンス、その後、成田さんが関わってきた作品で大好きなアルバムが何枚もあって……。

— 成田さんは、布袋寅泰さん、永井真理子さん、Cocco、D’ERLANGER、中野腐女シスターズまでの振り幅、つまり、ど真ん中のJ-POPからヴィジュアル系、オタクアイドルまでを手がけるプロデューサーですよね。

Atsuo:そうですね。成田さんは独特なスタンスでプロデュース業やアーティスト活動をされている方だと思っていて。ヴィジュアルに音楽を持ち込んだり……今はアイドルも手がけていますけど、人知れず、色んな隙間に入ってはその間を“埋める”作業をされている。何年か後には、世界的にも成田さんの仕事に対する評価がどんどんされて行くと思うんですけど……。だから「やるなら今だな」って。
そこでエンジニアの中村さんに紹介していただいた(成田氏も現在参加する80′Sニューウェイヴ・ユニット)D-DAYの川喜多さん経由で成田さんにお会いして、「こういう活動をしているバンドなんですけど、一緒にお仕事させて頂ければ、面白いものが出来るんじゃないかと思っていまして……」っていう話をさせて頂いて。そうしたら、成田さんなりに意義を感じていただけたようで……。今回の『New Album』は、成田さんのサポートがなければ到達出来ない場所にあるものと思ってます。成田さんはサウンド・プロデューサーというクレジットになってますが、ほぼ“Boris with Shinobu Narita”というコラボレーション作品になってますね。

— その作業というのは、つまり、これまでのBorisの音楽にあったエッジやアーティスト性を残しながら、Atsuoさんが深い興味を持っているという同人音楽やアニソンの新たな要素を加えていくということですよね。

Atsuo:成田さんの立ち位置と、Borisの立ち位置がすごく共振する部分がある。こちらのイメージの広がりを受け止めきれる人って、今、成田さん以外にいないんじゃないかなって思いますね。実際の作業においても「バンドが作った曲の雰囲気は1曲1曲あるから、それをとにかく大事にして、アレンジないし修正も編集も進めていきたい」っていうことで丁寧に進めていただいて。
だから、今回の『New Album』に至るまでに3枚のアルバムがあるわけですけど、これまでのBorisの流れにちゃんと繋がったものが出来たなって思ってます。

— 今までの話を総合すると、この『New Album』という作品は日本のマーケットに向けた作品と考えていいんでしょうか?

Atsuo:さっきもお話したように、日本が一番エッジー。そこも超えていくようなものを作れば、世界でも聴いて頂けるような作品になるんじゃないかなって。だから、逆説的に全方位を目指した作品なんですけどね。ただ、海外ではようやく裸のラリーズが認知されてきたっていう状況ですから……。僕たちのやってることが海外で正当に評価されるのは何年先の話になるやら(笑)。
あと、成田さんと作業していくうえで、J-POPとかJ-ROCK、ヴィジュアル系と言ったような“J”という感覚への接近について「そういう雰囲気が出てしまっても構わないです」という話もしました。むしろ、そういう感覚が加わった時によりBorisっていうものとの軋轢が音のなかに生まれて、もっと面白い感覚に変容するんじゃないかなっていう予測もありました。

— J-POP、J-ROCKっていう大きな枠組みはあるのかもしれないですけど、それを構成する音のパーツやそのパーツの組み合わせ方があり得ないくらいのハイ・クオリティ、いびつな構造で成立しているっていう。

Atsuo:成田さんとしては色々試行錯誤された部分はあったみたいですね。というのも、僕らはいわゆるAメロ、Bメロ、サビっていうようなJ-POP、J-ROCKの構造に則った曲の作り方はしていません。「このパート、1回しか出てこないけど……。なんか一小節多いんだけど……。」っていうように、文脈的なズレが生じる。そこに面白さが生まれてくると思ってます。

— そういう意味で、表層的な部分では既聴感のある作品のようにも感じるんですけど、よくよく聴くと、聴いたことがないっていう、そんな音楽であるように感じました。

Atsuo:“新しいもの”が出来たと思っているので、そう言って頂けると嬉しいです。

— 今回の作品を聴いて思ったのは、Borisというのは、もちろん、音楽をやっているわけですけど、ディティールにこだわったサウンド・デザイン、パッケージ・デザインも含めて、非常にデザイン的な感性を感じるということ。その点に関してはいかがですか?

Atsuo:性分としてオタク的っていうことなんじゃないですかね。感覚としては、ガンダムっていうサーガがあって、その中にGガンダムもあるし、∀ガンダムもあるっていうような感じ……。ガンダムのシリーズでもつながっているようで、一つ一つはバラバラだったりするじゃないですか? 今回のアルバムもそのひとつというか、結局作品ごとの世界観を描いていくしかない。だから、デザイン的になっていくんですかね。まぁ、デザインもどこまでがデザインで、どこからがファイン・アートなのかっていう境界も曖昧だったりするし。

— デザインといえば、バンドのデザインを担当するBorisの別名義、fangsanalsatanとして、ヘルムート・ラングの2009年秋冬のTシャツをデザインされていますよね。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ほか、数々の名作で知られる映画監督ジム・ジャームッシュの最新作『The Limits Of Control』。Borisは監督直々の要請でサウンドトラックを担当している。

『ストレンジャー・ザン・パラダイス』ほか、数々の名作で知られる映画監督ジム・ジャームッシュの最新作『The Limits Of Control』。Borisは監督直々の要請でサウンドトラックを担当している。

Atsuo:ツアー中にヘルムート・ラングのクリエイティヴ・ディレクターを務めるマイケル・コロヴォスから「何か一緒にやれないか?」っていうメールが突然来て……。話をきいたら、僕らのアートワークを気に入ってくれていたらしく、何点か絵を用意して送ったら気に入ってくれて、ブランドのコレクションに加えて頂けました。
その話や映画『リミッツ・オブ・コントロール』の音楽制作を依頼してくれたジム・ジャームッシュの件もそうですけど、向こうのデザイナーやアーティストにBorisやSUNN O)))、アースの音楽が一気に伝わっていった時期があって、その当時、海外のアーティスト達には新しいものとして迎え入れられたんだろうなって。

— ちなみに今回のアートワークは、Atsuoさんではなく、xhxix(非)さんという方が担当されていますよね。

Atsuo:そうですね。もともと知り合いなんですけど、ペン・タブレットを使って、デジタルでのペイントをずっとやってきてる方なんです。ぱっと見はデジタルには見えないと思うんですけど……。
現代って、デジタルもアナログも混在していて、どっちがいい悪いってこともなくなってきてる。そういったところを飛び越えて、“アリなもの”が残ってる感じじゃないですか。そういう意味で今回の成田さんとの作品もデスクトップ上で音を完結させました。
デジタル/アナログの対立を超えたところでの“アリなもの”を、音とアートワークの両側面で打ち出すことが出来たら、作品のトータル性として着地するんじゃないかなって……。だから、Wataの写真素材だけを渡して、好きに描いて頂きました。

— つまり、手法を超えたところで新しいものを生み出していこうという意志が音とアートワークには共通している、と。

Atsuo:今の時代、デスクトップ上で音楽を制作したり、デスクトップ上で絵を描いたり、レイアウトしたり、そういうツールが発達している。しかも特筆すべき点として、同じツールでも使う人によって使い方がまったく違う。人の目に見えないところで色んな方法論が実践されて“アリなもの”が生まれているという状況があちこちに発生している。いわゆる、音楽を作る時にエンジニアと一緒にレコーディング、ミックスして、マスタリングまでするっていう従来の方法論ではなく、別の道のりでの着地の仕方を今回試せた。今までの方法を否定しているわけではありませんが、自分自身どんどん変わっていきたいと思ってますし、色んな人の価値観、方法論に触れるのはいいことだと思ってます。

— そうやって、新しい表現を模索しながら、92年の結成から19年活動してきて、Borisの今後に関しては、どんなことを考えていらっしゃいますか?

Atsuo:早くCGになりたいですね。

— はははは。人を超えた存在に!?

Atsuo:実際制作会社に見積もり出したら一人300万ぐらいらしいです(笑)。
いや、人としてどこまで行けるか、その試みを続けていくしかないですね。今は人々を先導していくような強い価値観や大きい価値観、例えば、善悪だったり、綺麗/醜いっていう価値観も崩壊していって、物事が俯瞰しづらくなっている。作り手としても「これが正しいんだよ」って言えないような状況で、どういうものを“アリなもの”として提示できるか。その課題は作り手に突きつけられている問題だと思っています。
ひとつの存在でありつつ色んな見え方が出来る多層性というか、色んなところから見ることが出来る、そういう角度を持たないものは今後残らない気がする。世界、日本も含めた状況がどんどん研ぎ澄まされてく感覚があるので、まぁ、超えて行くようなスピードを出しながら挑戦を続けていくしかないなって思っているんですけどね、楽しみながら。

Boris『New Album』 発売中 CD:NFCD-27306 / 2,800円 (tearbridge records/avex group) LP:DYMV-996 / 4,200円 (Daymare Recordings) http://www.borisheavyrocks.com

Boris『New Album』
発売中
CD:NFCD-27306 / 2,800円
(tearbridge records/avex group)
LP:DYMV-996 / 4,200円
(Daymare Recordings)
http://www.borisheavyrocks.com

BONUS BEATS & PIECES

Borisのニュー・アルバム『New Album』のトレイラー映像