写真:浅田直也
人の動きを助けて、何か他のことが出来るようにする洋服
— 今の活動拠点はベルリンなんですか?
エロルゾン:そうですね。会社の登記はミュンヘンになっていますが、活動の拠点はベルリンです。
— アクロニウム以外にも『ストーンアイランド(Stone Island)』のシャドウプロジェクトなど、さまざまなブランドのデザインを手がけられていますが、それらもすべてベルリンをベースに行われているのですか?
エロルゾン:はい、あくまで拠点はベルリンです。でも、1年のうちベルリンにいられるのは、多くて半分ぐらい。あとは世界各地を飛び回ってます。ただ、イタリアで外部デザイナーとしてやっているのが2社ほどあるので、イタリアにいることは多いですね。
— 今、コレクションの型数は1シーズンあたりどれくらいあるのでしょうか?
エロルゾン:カバンや小物まで合わせると40型ぐらいですね。
— シーズンを重ねるごとに型数が増えている感じなのでしょうか?
エロルゾン:シーズンごとにガラッと内容を変えたりするようなことは無いのですが、かといって洋服に関しては全く同じものを2シーズン、3シーズンと連続でリリースしたことはないんですよ。例えば、あるコンセプトのジャケットを作ったら、それをバージョン1.0と名付けて、とことん着たり使ったりしてみる。それでもう充分だと感じれば、もう同じモノは作らないんです。ところが、まだここに改善の余地があるな、と思えば、次のシーズンにはバージョン1.1としてアップデートしたものを作るんです。あとは進化の度合いやデザインの違いに応じて1.2になったり2.0になったり。つまりコンピューターのソフトウェアのようなもので、通常のファッションブランドとはちょっと異なるアプローチかもしれません。
— 常に進化していっているんですね。
エロルゾン:だから似ているものは確かにあるんですよ。また大抵色が黒だったりするので、余計同じように見えてたりするのかもしれませんが(笑)。
— 黒以外のアイテムもあるんですか?
エロルゾン:うーん、そんなには無いですね。基本的にベースは黒です。
— 黒に対するこだわりはあるのでしょうか?
エロルゾン:機能を多く盛り込んでいる分、そんなに安いものではないので長く着られるように、という気持ちもあるのですが、単純に黒が好き、というのが第一ですね。
スタート当初はネイビーとかオフホワイト、グレーなども使っていたのですが、やってるうちに自然と黒の割合が増えてきて。そのうちに展示会でも黒が圧倒的に売れる様になってきて、今に至っています。
あと、黒とドイツ軍のカーキっていうのは、唯一のテーマコンビネーションとしてあります。
— ミリタリーものがお好きなんでしょうか?
エロルゾン:周りの人たちが想像するほどミリタリーに思い入れがあるわけではないんですけどね。
若い頃からアクティブスポーツウェア、スノーボードウェアなど、機能性を求められる服のデザインをずっとやってきているんですが、ミリタリーはその究極というか、機能性に問題があったら生命の危機に直結するわけじゃないですか。そういうところから生み出された機能っていうのは決して無視できないですし、まじめに捉えてはいるのですが、ミリタリーモノばかり気にしてるかというと決してそんなことはないです。
— そういったファンクショナルな服を好きになったのはいつごろからなんですか?
エロルゾン:ひとつには私の両親が2人とも建築家だったっていうこともあって、物心ついた頃から様式美と言いますか、建築に関する写真集などを自然と見ていたという環境がまずありまして。あとは子供の頃から空手をやっているんですけど、その時に自分の体の動きを服にさまたげられたくない、というのがあって、無意識に洋服をふたつに分けていたんですよね。人の動きを制限する洋服と、人の動きを助けて何か他のことが出来るようにする洋服と。空手は下半身の動きが激しいですから、そういった動きをさまたげないズボンばかり探してたんですが、結局ちゃんとしたものが無くていつもブカブカのものばかり穿いていました。でもそういったことでちゃんと動けるパンツは無いのかな、って子供心ながらに思っていましたね。
— 最初に自分で洋服を作ろうと思ったきっかけはどんなことだったんですか?
エロルゾン:モテたかったから、ですかね(笑)。 学生時代にインダストリアルデザインとか建築デザインとか色々あるなかからファッションを学ぼうと思ったのは、かわいい女の子が多かったからなんです。そこで某ブランドのパロディみたいなTシャツを友達と2人で作って、女の子に向けて売り出したのが最初ですね。15歳の頃かな。
— そこから『プロティクティブ』というブランドに入られて。
エロルゾン:多分1993年からドイツに住みはじめて、94年か95年頃にプロテクティブのデザイナーになりました。
— なぜカナダからドイツに移住しようと思ったんですか?
エロルゾン:学生時代の同級生で、今アクロニウムのパートナーであるミケッラという女性がいるんですが、彼女はドイツからの留学生だったんです。それで、彼女の帰国に合わせてそのまま一緒に行っちゃったという感じですね。
— ミケッラさんはどんなことを担当されているんですか?
エロルゾン:彼女は私と一緒にデザインをしたり、ベーシックなリサーチやプレス業務、生産管理的なことなどをやっています。
— 実質的にはエロルゾンさんとミッケラさんの2人でアクロニウムは運営されいるのですか?
エロルゾン:チェコに小さい工場があったり、ウェブサイトとかやってる人たちを全部あわせたら15人くらいにはなるんですけど、コアになるのは僕ら2人です。
— 先ほど2人でデザインをするっていうお話がありましたけど、どんな時にデザインが浮かんだりするのでしょうか?
エロルゾン:今でも既に思いついているのに、実行に移せていないものがたくさんあるんです。それは単純に労力の問題なのか、やりたいことにテクノロジーが追いついていないのかは分からないんですけど、いずれにせよ機が熟したものからやっていく、ということもあれば、機能素材に関してはある種開発スタッフに近いような動きをしていて、新しい生地が開発されると、まず僕らの手元に来るんです。それでそういう新しい素材を見てアイデアが浮かぶことも当然ありますね。
だから今回のケースの様に、「こういうものがやりたいんです」って言われて、こちらで頭を悩ませて作るケースはほぼなかったですね。
— 実際にやってみてどうでしたか?
エロルゾン:コートに関しては過去のアーカイブを今の生地で復刻した形になっているんですけど、トートバックに関しては完全に1からのオリジナルなんです。ビューティ&ユースさん側から、「こういうコートを着る人だから、メッセンジャーバッグでは困る」と。「トートバックなら持てるんじゃないか?」というお題をもらったうえで、僕らが考える既存のトートバッグに対する問題点と、それに対する僕らの回答はこうだ、ということを全部表現しました。
— アクロニウムのバッグ類は、メッセンジャーバッグで有名な『バッグジャック(Bagjack)』とタッグを組んで作られているそうですが、その経緯は?
エロルゾン:じつはアクロニウムというブランドが出来る前の話なんですよね。その前は自分のブランドを立ち上げるにあたって、ドイツ軍のバッグを作ってるメーカーと組んで色々開発をしてたんですが、やはりフレキシビティに欠けていてちょっとフラストレーションを感じていたところに、展示会でピーター(・ブルンスバーグ。バッグジャックのデザイナー)がバックジャックとしてブースを出していて。それでストラップシステムなどに感銘を受けて、自分たちの話をしてみたらお互い同調したんです。だからバッグはもちろん、服も一部の技術的な点に関しては共作している部分が多いですね。
やっぱりピーターは、ミケッラ以外にそういった製品作りに対する価値観なり目標なりを共有出来る唯一の存在。ただ作るというよりも、作り上げたもので何が出来るか、っていうことを考えたうえで制作してくれるという意味では、唯一同調出来るデザイナーです。
他のデザイナーも強みとかはあると思うんですけど、ことアクロニウムの製品を作り上げることに関しては、彼以外のパートナーは考えられません。
— 今回のバッグで特に大変だったところはありますか?
エロルゾン:一般的にトートバッグというものはどうあるべきか、っていうところから議論をスタートさせたんですね。まず普通のトートバッグだと、雨が降ったら中の荷物が濡れてしまうから、それを解決しなきゃいけない。あと、本来ラップトップコンピューターを持ち運ぶように作られてはいないのに、いかにトートバッグで持ち運んでいる人が多いか、ということ。そして、キャンバスなどの屈強な素材を使わずに、軽くてかつ洋服にも優しい素材を使いながらも、自立するような構造を取る、ということなどをまず考えました。それで口の部分を防水にしたり、軽量化のために芯は抜きながらも、コンピューター用のスリーブを中央に配置することで自立するようにしたりしています。
— 服やバッグ以外、例えば靴を作ってみたいとか、そういう希望はありますか?
エロルゾン:当然靴は欲しいじゃないですか。実際、靴に関しては色々なアイデアが溜まってきているんですけど、やるのであればバッグジャックと組んでバッグを作る様に、同じ考え方のレベルで組めるパートナーを見つけないことにはしょうがないので。靴っていうのは少し大きな話になっちゃうんでしょうね。50足だけ作ってみる、とかいうような世界ではないと思うので。ただそういったオファーが無いわけではないので、遅かれ早かれやるとは思います。
— ファッション的なバックボーンに興味があるんですけど、学生の頃はどんな服を着られてたんですか?
エロルゾン:まず学生の時は本当にお金がなかったので、ダボっとしたワークパンツと、無地のTシャツに自分でプリントして、みたいなものだけでしたね。でもその後はモードなものも見ましたし、アークテリクスのようなものも見てますし、リアルスポーツのものもミリタリーのものも、ディオールとかランバンっていうのもチェックしています。
— その中で好きなデザイナーは?
エロルゾン:アンダーカバー、リック・オウエンス、シャネルは好きです。それは洋服というよりも姿勢だったり、そういうことも含めてなんですが。あくまで総合的に見て、ということです。
— オフの時間は何をされていますか?
エロルゾン:友達とただつるんでいるだけです。たくさん映画を見て、たくさん本を読んで、友達とつるむというだけですね(笑)。
— 稚拙な発想で恐縮ですが、ベルリンというとテクノがまず思い浮かぶんですけど、夜遊びはされるんですか?
エロルゾン:とにかくもう毎日毎日どこかで何かのパーティがあるので、行かずには済まされないくらい簡単にクラブには行けるんですけど、最近はあまり行ってませんね。
— 音楽から何かインスピレーションを受けることはありますか?
エロルゾン:音楽無しで仕事は出来ないです。ずっとかけ続けています。
— 好きなミュージシャンは?
エロルゾン:たくさんいますけど、最近だとデッド・ウェザーとか。あとはロサンゼルスのクラブのポッドキャストを聞いていたり。グリッチ・モブっていうDJ集団も好きです。
— 車は運転されますか?
エロルゾン:運転しますね。ドライブは好きです。
— 自動車など、身の回りのプロダクトにもこだわってらっしゃるんですか?
エロルゾン:車に関しては、アクロニウムをはじめるときにはかなり勉強しました。車そのもののデザインとかシートのデザインとかそういうものではなくて、インターフェイスとしての車の作り方っていうのがあって。例えば、どんな車に初めて乗っても、20秒たったらなんとなく操作の仕方は分かるじゃないですか。そういう意味で計器の配し方だとかボタンとかレバーとか、そういったものはインターフェイスとしてすごく優れているのがわかっていたので、真剣に追っていますね。
— 日本に来たのは何回目ですか?
エロルゾン:25回ぐらいかな? 最初は1991年ですね。
日本は全てが楽しいですよ。最初に来た時から、ずっと帰りたくないぐらい(笑)。
— 今回も楽しんでいってください(笑)。今日はありがとうございました。
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