MasteredレコメンドDJへのインタビューとエクスクルーシヴ・ミックスを紹介する「Mastered Mix Archives」。今回は、MU-STARS、MU-STAR GROUPの藤原大輔。
今年6月に7年ぶりの新作アルバム『いくつかのはなし』と藤原大輔名義で手掛けたTVアニメ『とんかつDJアゲ太郎』のサウンドトラックをリリース。スチャダラパーのBOSE、二階堂和美、ROPESのachico、STERUSSのbelama2をフィーチャーし、メロウかつメロディ・オリエンテッドなブレイクビーツを紡ぎ出す『いくつかのはなし』に対して、『とんかつDJアゲ太郎』のサウンドトラックではダンストラックの多彩なアプローチを披露している。そんな彼のキャリアや新作を紐解くインタビューとDJミックスを通じて、“Mellow & Low”な音楽世界に触れていただきたい。
Interview & Text : Yu Onoda | Photo & Edit : Yugo Shiokawa | Special Thanks : 終日one & TO.MO.CA. Coffee
※ミックス音源はこちら!(ストリーミングのみ)
喜怒哀楽の“哀”の感情だけでアルバムを作ってみたいなって。
— 藤原くんは、スチャダラパーのライヴでオープニングDJを務めた時、スチャダラパーから教わった曲縛りでDJをするほど狂気的にスチャダラパーを敬愛しているとか。
藤原:あはは、そうですね(笑)。昔スチャダラパーがラジオでかけた曲、SHINCOさんがDJでかけた曲とかをずっとメモってて、そういう曲だけでDJしたんです。僕の音楽性はスチャダラパーと、それからビースティ・ボーイズに圧倒的に影響を受けているので(笑)。たしか小6にテレビゲーム「ゼルダの伝説」のCMに使われてた「ゲームボーイズ」でスチャダラパーの存在を知って。しばらくして、1994年の『スチャダラ外伝』と『ポテン・ヒッツ』が出た時に、「あっ、あのゼルダの人だ!」って。ラップやって、ゲームも上手くて、大人ってこれでいいんだって思ったんですけど、スチャダラパーがいとうせいこうさんやみうらじゅんさんにそう感じてたものと、たぶん近いものを、僕はスチャダラパーに感じてたんでしょうね。そして、ビースティ・ボーイズはスチャダラパーが好きなグループということで聴くようになったんですけど、僕が通ってた当時の和光高校はみんなメロコアを聴いていて、彼らとの唯一の接点がビースティ・ボーイズだったんです。
— 音楽の世界には和光出身のミュージシャンがホントに多いですよね。
藤原:僕らの上にCORNELIUS小山田くん、LITTLE CREATURES、そのちょっと下にBREAKfAST。さらに僕の下にはTHE BAWDIES、THE OKAMOTO’Sなんかがいて。そんななか、僕は地味にヒップホップを聴いてたんです。
— MU-STARSのファースト『CHECK 1,2』でBREAKfASTの森本(雑感)くんをフィーチャーしてたのは、そういう繋がりもあったんですね。そう考えれば、最初の時点からMU-STARSの音楽がハイブリッドなものだったのも納得です。
藤原:そうですね。ビースティだったり、周りの環境もあって、自分が自然に音楽を作ると、そういうイロイロなものをごっちゃにした物になるというか、自分のなかで一番好きなのはヒップホップだし、ヒップホップ的な作り方しか出来ないけど、色んなジャンルへの憧れがあって、ヒップホップだけをやりたいわけではなかったんですよね。
— ヒップホップ的な作り方ってことで言えば、初期はサンプリングによるクラシックなブレイクビーツが土台になっていましたよね?
藤原:ファーストの時はプロツールスが扱えなくて、完全にMPCのみで作って、しかもMTRも無かったので、マスター音源がMPCからの直出しを録音したMDだったんですよ。そして、スタジオではそのMDをオケにヴォーカルを録るっていう、かなりザックリした作り方でした(笑)。
— ファーストが出たのは2005年ですよね? MDがまさに絶滅しようとしてた時代にMDを使ってたのは、音質が好きだったから?
藤原:それもあるんですけど、当時は何の疑問も持たず、周りにあるものでやってただけですね(笑)。でも、作品を出した後から「あの音って、どうやって作ったの?」って、褒めていただくことがたびたびあって、そのいきさつを話して驚かれたっていう(笑)。
— ははは。ガレージロックと同じノリですね。そこから2009年のセカンドアルバム『BGM LP』では、デジタルレコーディングに移行したんですよね?
藤原:そうですね。Pro Toolsを導入して、最初はサンプラー的に使っていたんですけど、ミュージシャンの友達が増えたことで、簡単に組んだビートの上に弾いてもらった楽器のフレーズをサンプリングしなおして加えるようになったりして、ビートメイカーからちょっとミュージシャンに近づいていったというか。かつて、近田春夫さんが言った「ヒップホップは非音楽家の音楽革命だ」というところが最高にカッコイイなと思って音楽を作っていたんですけど、やっているうちに、いわゆる音楽家に対する憧れも出てきたんですよね。
— MU-STAR GROUPとして、バンド形態のライヴもやってましたもんね。
藤原:バンドに対する憧れもずっとあって、自分でも多少はキーボードを弾くんですけど、自分がやってるのはバンドじゃないしなーっていう思いも一方にはあって…。でも今も変わらず、バンドは羨ましく思いますね。当初、自分が音楽を作る時、サンプルのキーがぶつかったりするのは気にならなかったし、むしろ、ウータン・クランのRZAが作るトラックとかは、無意識的にそういう部分に格好良さを感じていたと思うんです。でも、そういうことに詳しいYOUR SONG IS GOODのJxJxさんに指摘されたりして、自分の無茶苦茶さに気づかされたっていう。だから、今は音がぶつかってたとしても、それを分かったうえで、敢えてやりたいし、そういう勉強の必要性は感じていますね。
— 6月に出た最新作『いくつかのはなし』と同時期に、MU-STARSが制作を手掛けた『とんかつDJアゲ太郎』のサウンドトラックがリリースされましたけど、初期の作風を彷彿とさせるクラシックなブレイクビーツからニューウェイヴ的なトラック、EDMまで、作風が幅広いじゃないですか。だから、MU-STARSはすごく器用なビートメイカーなんだろうなと思っていたんですけどね。
藤原:そう言ってもらえて、すごく光栄ですし、自分としても器用になれたらいいんですけど、じつはそうじゃないんですよ。例えば、クライアントの要望に添ったCM曲を、どんなジャンルでもぱっと作れる人っているじゃないですか。でも、僕の場合、なかなか出来ないんですよ。『とんかつDJアゲ太郎』に関しては、仲良くさせてもらってる作者の小山(ゆうじろう)くんのイメージを聞きつつ、ちょっと初期衝動的に作ってみたものが、ちょうど作品の雰囲気にあっていたので、ああいう内容になったというだけです。
— でも、初期衝動的に作ると、ドラムが前のめりになるところが、MU-STARSらしいですよね。
藤原:ああ、確かにそれはそうかもしれない(笑)。なにせ、僕はドラムブレイクが入ってるレコードをひたすら掘ってた人間なので(笑)。
— 一方の『いくつかのはなし』は、そこまでドラムが暴れてなくて、ゆったり聴ける作品になっていますよね。
藤原:ミュージシャンに憧れるトラックメイカーがヒップホップの手法を使いつつ、歌謡曲を目指した、そんなアルバムですね(笑)。ヴァースがあって、サビがあるっていう、ちゃんとした歌メロを作ってみたいというアイデアが一つ。それからもう一つは、スチャダラパーが「From 喜怒哀楽」を作った時、小沢(健二)さんから「すごくいいんだけど、詰め込みすぎだよ。喜怒哀楽の“哀”だけで一枚作ったら売れるのに」って言われたというエピソードを何かの記事で読んだことを思い出して、自分も“哀”の感情だけでアルバムを作ってみたいなって。“哀”と一言で言っても、テンションの高い“哀”もあれば、オチてる時の“哀”、心地いい“哀”もある。だから、アルバム一枚で色んな“哀”が表現出来るんじゃないかって思ったんですよ。
— 何故、喜怒哀楽の“哀”だったんですか?
藤原:それは年齢的なことがあるかもしれないし、あとアルバムを作り始める前に、「MELLOW & LOW」っていうDJミックスをネットにアップしたことがあって、それは切ないリフや綺麗なメロディが入ってる曲だけを集めたものだったんですけど、普段反応しないような人たちから好反応があって、FUNKYだったりご機嫌なものだけじゃなく、メロウというか、“哀”なもので聴き手と繋がることもあるんだなって改めて思ったんですよね。それでレーベルの担当者に「次はメロウなアルバムを作ろうと思ってる」って言ったら苦い顔をされて、「メロウ……ですか?ちょっと直球過ぎて恥ずかしいっすね」って返されたんですよ(笑)。「いや、そういうんじゃなく、いいメロウもあるんだよ!」って、むきになって説明したんですけど(笑)、確かに “メロウ” と言葉のみで括ったら、ダサくなったりもするし。でも、いいものはいいですからね。
— しかも、メロディ・メイカーが表現する“哀”と、リズムを軸とするビートメイカーが表現する“哀”はまた違いますしね。
藤原:同じフルートのループでも、例えば、ビースティボーイズ「SURE SHOT」はイケイケなのに対して、「FLUTE LOOP」がちょっと切なく響くように、テンションの高さは共通しているのに、そういうちょっとした違いで切なく響く作品を作りたかったし、そうやって作った音楽が、例えば、誰かのiPhoneから日常に浸透するように、じっくり付き合ってもらえるアルバムをイメージしたんですよね。
— このアルバムには4曲のヴォーカル曲が収録されていますが、先輩であるスチャダラパーのBOSEさんと二階堂和美さん、同世代であるROPESのachicoさん、STERUSSのbelama2で上手くバランスが取られていますし、BOSEさんの歌う「さいごのうた」は7分の長尺曲でパーソナルなラップを展開しているところがスチャダラパーではあり得ないトライアルですよね。
藤原:もともと、BOSEさんの曲は2分のデモだったんですよ。でも、返ってきた曲はBOSEさんが自分でループして7分の長さになってたし、そこにはサビも入ってて、すごくびっくりしたし、感激もしたんですけど、BOSEさんは「あの曲を普通にやってそのまま2分で返しても面白くないでしょ。おどろかさなきゃって。そのためにスチャダラパーをやってるんだよ」って。その言葉を聞いて、ホントしびれましたね(笑)。
— そして、BOSEさんの「さいごのうた」と二階堂さんの「はじまりのうた」は、アルバムのなかで対になっている曲ですよね。
藤原:ニカさんの曲の歌詞は、何かのきっかけを掴む、そういうつもりで僕が歌詞を書いたんですけど、タイトルだけが決まってなくて。そんなタイミングでBOSEさんの「さいごのうた」が完成したので、ニカさんの曲に「はじまりのうた」っていう対になるタイトルを付けたんです。ただ、僕が書いた歌詞はヒップホップ・マナーで韻を踏んだり色々詰め込みすぎたら、ストーリーの伝え方にダメ出しを食らって(笑)、レコーディング当日の朝方ギリギリまで書き直したんですけど、ニカさんならではの唄い手さん目線のアドバイスが、ホント勉強になりましたね。
— 先輩たちの胸を借りつつ、同世代の2人とのやりとりはいかがでした?
藤原:achicoさんとSTERUSSのbelama2は、友達サイドの人間とやりたいことをやろうと思ってお願いしたんですけど、特にachicoさんが歌った「ループ」はもともとヴォーコーダーで自分が歌おうと思っていたんです。でも、締め切りの直前に出来た歌詞を歌ってみたら、全然良くなくて(笑)。だから、仲が良くて、無茶なお願いでも対応して頂けそうなスキルフルな人っていうことで、achicoさんにお伺いを立ててみようかなと。そうしたら、achicoさんはachicoさんで、コーラスメンバーとしてくるりのツアーに出ていたにも関わらず、ライヴ後の打ち上げにも出ないで、ホテルで素晴らしい歌を録音してくれたという。まぁ、その2曲に関しては、ストリート・ワイズな作り方ですよね(笑)。
— MU-STARSは、友達には雑なユニットなんですね(笑)。
藤原:(笑)いやいや、ホントみなさんには感謝してます。締め切りがあってもこんな感じなんで、締め切りがなかったら、いつまでも作業を続けて完成しなかったと思います(笑)。
— ファーストの『CHECK 1,2』からセカンドの『BGM LP』までが4年、そこから今回の『いくつかのはなし』までが7年。その活動の軌跡がマイ・ペースぶりを物語っていますね。
藤原:BOSEさんにも「なんで、大御所でもないのに7年もかかってるの?」って言われて、「いや、普通に作ってたら、7年経っちゃってたんですよ」って答えたら、「その答えじゃつまんないから、世界一周旅行に出てましたとか言いなよ」って(笑)。まぁ、自分は夏休みの最終日に終わってない宿題で慌てるタイプの人間ですからね。まあ今後も変わらず、こんなスタンスで続けていけたらいいなって思います。
— じゃあ、最後に今回制作していただいたミックスについて一言お願いいたします。
藤原:先ほど話に出たミックス “MELLOW & LOW” の続編という感じで作りました。「From 喜怒哀楽」でいうと“哀”でまとめたやつです(笑)。純粋に切ないメロディーの綺麗な曲もあったり、すごく明るいのに、妙に切なく聴こえる曲とか。人やシチュエーションによって、それぞれ感じ方は違うと思いますが、イロイロな“哀”を感じていただけたら嬉しいですし、聴いてくれた人に、どの曲でどのような“哀”を感じるかを聞いてみたいですね。「この曲は祭りの後のなんだか寂しい感じ」みたいな(笑)。
MU-STARS
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カクバリズム
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